第9章 会いたい
イゾウは思わず目を細めた。
女の涙などに、心を動かされるような生き方はしていない。
だが、そのイゾウの目から見ても、
その流れる涙は美しい。
“何て顔をしやがる”
もしすぐ近くにいたなら、その涙を拭ってやりたいとさえ、思わせる程に女の、沙羅の顔は悲嘆と苦渋に満ちており、心を動かさずにはいられなかった。
その沙羅の視線がふいに、イゾウを向いた。
“!!”
満月を間近に控えた光は沙羅の瞳を際立たせた。
濃い紫と
鮮やかな青色を
混ぜたような深い透明感。
瑠璃色の瞳が、
イゾウと、
イゾウの心を捉えた。
だが、それは瞬きするほど僅かの事。
イゾウに気がついた沙羅は一瞬で海中に姿を隠した。
「・・・」
今のは酒による幻影か?と自問するも、生憎、酔いつぶれるには船中の酒樽を空けるほど飲まなくてはいけない。
「・・・ハッ・・・」
熱を帯びた体を冷ますようにイゾウは息を吐いた。
舩番でなければ、今からでも船を降りて、女を抱いて滅茶苦茶にしてやりたい気分だった。
「参ったねぇ」
そう言いながら腰を下ろし酒をあおる姿は、男とは思えないほど艶(ナマ)めかしかった。