第2章 出会い
それから3日間マルコはモビーディック号の到着を待っていた。
その間にマルコはすっかり沙羅に懐かれてしまった。だが、それを悪くないと思える自分もいて、そんな自分に戸惑うばかりだった。
戸惑う理由はそれだけではない。
マルコは崖に自然にできた凹みや、突き出た岩を上手く利用し、慣れた動作で飛び降りてくる沙羅を見つめた。
“不思議な事だらけだよい”
森の奥の小高い丘の上に立つロイの家。
そこから海に出るには、“常人ならば”丘を降り、低地から海岸線に向かうであろう。
しかし、11歳だという沙羅は、海賊で、男で、年上のマルコでさえも、多少は手間取るこの崖を身軽に降りてくる。
あり得ない身体能力だ。
あり得ないことはそれだけではない。
マルコの怪我は数日で治るようなものではなかった。
だが、目が覚める度に傷は薄れ、体力は回復していた。
そして、先日の沙羅の言葉。
まるで白ひげに会ってきたようではなかったか。
つい考え込んでしまったマルコの耳に小さな悲鳴が聞こえた。
ハッとするよりも早く、マルコは崩れた足場から落ちる沙羅の元へ走った。
しゃら・・・シャラ・・・と、あの時の音がまた微かに聞こえた。
「沙羅!!大丈夫かよい?!」
マルコの腕に落ちてきた沙羅は、水に浮いているように軽い。
違和感を感じたマルコは沙羅の顔を覗き込んだ。
“?!”
マルコは目を瞬かせた。沙羅の左目だけがユエと同じように鮮やかに青く輝いていた。
しかし、それは一瞬にも満たない程、僅かのこと。
目を瞬かせた後には、あの瑠璃色の瞳がマルコを見上げていた。
トクンっとマルコの胸がまた小さく小さく跳ね上がる。
「あ~びっくりした!」
その声に、マルコも自身の胸の動きに気づくことなく、沙羅をゆっくりと降ろす。
「どこかいてぇところはねぇか?」
「大丈夫!ありがとう、マルコ!」
にっこり笑う顔が眩しい。
「・・・よい」
マルコは辛うじて相槌を打った。
海賊になって10年程経っただろうか、いや、そもそも海賊になるよりも前から世の中の嫌われ者だったマルコにとって、そのまっすぐな笑顔は眩しすぎた。