第7章 それからの一年
その後、会計を済ませ、モビーディックに戻れば既に宴が始まっていた。
「全く騒がしいねぇ」
と言いつつ、珍しく宴に参加すれば舞を披露し、三味線を弾き、ついには、自身の名でもある琴を弾き、その見事な音色に白ひげですら拍手を送った。
「グララララ~相変わらず、すげぇなぁ、見事だぁ」
「おや、あんたに褒められるとは嬉しいねぇ」
にこりと返し、そこで、部屋に帰ることにしたらしい。
沙羅に歩みよると『そろそろ私は寝るよ』と声をかけた。
お琴が寝るなら『私も』と言った沙羅に、『若いうちは遊ぶもんだよ』と艶っぽい笑いを浮かべた。
去り際にお琴は思い出したように、艶やかな朱の生地に金糸の刺繍が美しい懐刀袋を取り出した。
その見覚えのある袋に沙羅とマルコは、思わずはっとした。
「沙羅、お前さんにあげよう」
それは、死に際に歳三が、お琴に返してくれと言った物だった。そんな大事な物は貰えない、沙羅が言うとお琴は、笑って言った。
「これはね、あの人と夫婦(メオト)になった時に、あの人に預けた物なんだよ」
複雑な事情から、昔は常に、命を狙われていたお琴。
そんなお琴と祝言を挙げた晩、歳三はお琴に誓った。
『私の命ある限り、私がお守りする、だから、“これは”お預かりいたす』と。
昔を思い出し、ほんのりと頬を染めたお琴は、可愛かった。
だが、そんな、思い出の物なら尚更貰えないと沙羅が言うとお琴は、柳眉を顰めた。
「およし!白ひげ海賊団の女が戦闘でもないのに、長刀を持ち歩くなんざは、ニューゲートの恥だ」
「お琴さん、何もそこまで言わなくても・・・」
しかし間に入ったクルーも『お黙り』と言い放たれれば、黙るしかない。
「お前さん、ニューゲートやマルコ達が女一人守れないと吹聴して回る気かい?!」
「!!ごめんなさい、そんなつもりは・・・」
しゅんと落ち込んでしまった沙羅にお琴は今度は優しく言った。
「少しは大人しくおなり、お前さんは私の“自慢の娘”なんだ」
「お琴さん!!」
自慢の娘と言われれば、もう天にも昇るようだ。
「私、もっと自慢の娘になれるように頑張るね!」
興奮した沙羅が飛び跳ねながら言えば、回りのクルーは呆れ、お琴は嬉しそうに何度も頷いた。