第7章 それからの一年
それから暫し後。
「お琴さん」
「うん?」
「私、お琴さんが時々焚いてくれる香り好きなの、あれはだめかな?」
するとお琴は嬉しそうに笑った。
「月桂樹の香りだね」
「げっけいじゅ?」
「あぁ、・・・これだね」
そう言いながら、試香紙をかざした。すっきりとした穏やかな香りが漂う。
「やっぱりいい香り!」
沙羅は気に入ったようだ。
「そうさねぇ、いい香りだが沙羅の香りとは違うねぇ、どうだい?マルコ?」
差し出された紙の香りに癒やされるような穏やかな気分になったマルコだが、確かに沙羅らしくない香りだった。
「いい香りだが、少し渋いってぇか、苦えっていうか・・・」
「時々焚くにはいいんだがね、あんたの良さが出ないのさ、ほんの少し柔らかさが足りないねぇ」
言葉に困るマルコをお琴が引き継いだ。
「柔らかさ・・・」
言われた言葉を、胸に止め沙羅は再び探し始めた。
マルコとお琴はそれを見守りながら近くの椅子に腰をかけた。
「・・・」
何を話したらいいかわからないマルコに、お琴が口を開いた。
「あんた、遊んでるわりには沙羅には奥手だねぇ」
「?!あ、遊んでね・・・」
「この前サッチと随分盛り上がったそうじゃないか」
「!!・・・」
いきなりの発言に驚くマルコを遮り、放たれた言葉は強烈な一撃を放った。
「あ、いや、あれは・・・」
動揺と気まずさに首筋をさすり、口ごもる。
沙羅への気持ちを自覚してから、無意識に“その行為”を控えるようになったマルコ。
だが、無意識の禁欲に沙羅への欲望は募るばかり。
見かねたサッチは、時々マルコを連れ、いや、騙して、欲を発散させに行っていた。
商売女に欲情はせずとも、欲は溜まる若い体に、マルコ自身抗えるはずもない。
サッチ曰く、付き合っているわけでも、気持ちを伝えたわけでもない。
それ以前に、男として意識的されてないのに、我慢する必要あるわけ?だそうだ。
(あまりにも容赦ない言い草にジョズとビスタからは同情され、余計に惨めになったことは言うまでもない)
そんなサッチが、気合いを入れて用意した女にまんまとはまり・・・珍しく一夜を共にしてしまったマルコ。
無論、熱中するくらいだ。とても人様に話せるような行為ではない。
しかもその行為の全てを頭の中で、沙羅に置き換えたなど。