第27章 幸せにおなり★
それは、 単身で騒動を収めたマルコが帰艦し、
少ししてからのことだった。
甲板で他愛ない会話をしていた沙羅の元に届けられた手紙。
父と母を失ってからは一度とて、受け取ったことなどない手紙に沙羅は不思議そうな顔をしながら、それを開いた。
「・・・?・・・!!」
読み進めていくうちに、その瞳は見開かれ、次いで、滲んだ涙を堪えるように細められた。
「副長?」
「沙羅さん?」
「沙羅?どうした?」
ただならぬ様子に、回りから声があがるのと、
少し離れたところにいたはずのマルコが異変に気づき、やって来たのはほぼ同時だった。
「っ・・・」
呼ばれた声に口を開けば、感情が押さえられなくなるという自覚があるのだろう。
ほんの少し、震えながらマルコに手紙を差し出した沙羅。
それを感じ取ったマルコも、努めてゆっくりと手紙を受け取った。
そうすることで、沙羅の気持ちを落ち着かせようとしたのだ、が。
「・・・」
驚きにやはり目を見開けば、沙羅と視線が重なった。
「マルコ、私・・・私っ・・・!」
「わかってるよい、落ち着け」
それでも取り乱すことなく、瑠璃色の瞳を揺らす沙羅の頭をふわりと撫でると、連れ立って白ひげの元へ向かった。
「おやじっ、入るよい」
いつもより雑な所作で入室してきたマルコを咎めることもなく、むしろ後ろで思い詰めた様子の沙羅を認めれば、白ひげは金色の目を細めた。
先ほど一度だけモビーディックが不自然なリズムを刻んだのは気のせいではなかったらしい。
マルコから差し出された手紙を読み終えれば、白ひげは二人を見た。
先に口を開いたのは沙羅だった。
「おやじ様、私、・・・行きたい」
沙羅がそう言うのも無理はなかった。
手紙の差出人は、かつて母と慕ったお琴とともに訪れた和装屋の主。
その用件は、閉店の告知。そして着物の引き取りを願うものだった。
あの日、未来の沙羅のためにお琴が選んでくれた着物。
“取りに行きたい”
だが、それを実現するには状況が悪すぎた。
白ひげ自らが、悪魔王ゾイドに宣戦布告をし、
ゾイドもまた、先日の船をもってそれを示した。
狙いは沙羅。
その沙羅が狙うのはゾイドが奪った母ユエの足、
そして、ゾイドの命。