第25章 二つ島~距離~★
もう、他の誰かから学ぼうなどとは二度と思わないだろう。
高ぶった感情に泣きそうな沙羅を刺激しないように、そっと抱き起こし、視線重ねた。
「俺はお前ぇがいいんだ」
マルコの目が優しく笑う。
「生まれて、生きてきて、今がある、そのお前ぇが、沙羅がいいんだ」
「!!」
目を見開き、瞬間、こぼれた一粒の涙をマルコの指が優しく掬う。
『生まれて、成長して、今がある、そのお前ぇが、沙羅がいいんだ』
その言葉の裏にある、深い愛。
海神族であることも。
あの悪夢など生温い一夜で抱えた深い闇も。
そして今も。
復讐するために、殺すために生きていることも。
全てを知った上で、マルコは告げたのだった。
沙羅がいい、と。
「私も・・・」
そう言いながら解放された体から手を伸ばすと、沙羅は子供の頃のように、ぎゅっとマルコを抱き締めた。
そして、心の中で密かに告げた。
未だ明かされることのない、マルコの心の奥底にある闇がどんな事だったとしても。
「マルコがいい、好き、大好き!」
沙羅の想いが伝わったのか、否か。
密着した柔らかな感触に『煽るなよい』と言いながらもマルコは優しく抱き締め返した。
本当は押し倒してしまいたい。
それでも、沙羅だから。
沙羅を大事にしたいから。
“今日は”ここまで。
マルコは溢れ出しそうになる自身の欲望に、毎日蓋をする。
まだ互いに愛という言葉は告げていなくとも、
二人は互いに深く愛しあっていたのだった。