第5章 海が泣いている
穏やかな波。時折吹き抜ける爽やかな風。
向かっている島が春島のせいか、穏やかな航海が続いていた。
「「「あと一人!、いけいけ~」」」
「沙羅、勝ち抜け~」
賑やかな声が甲板に響く。
「てめぇら、どっちの味方だよ!」
と、正面を見据えながら言った男の脇腹に、見据えていたはずの沙羅の蹴りが決まる。
『うげっ』と悲鳴のような叫びが漏れた。
「勝った~~~!」
「沙羅すげぇ!」
「強くなったなぁ」
厳つい顔の男達から、次々に頭を撫でられ照れ臭そうに笑う。
そんな様子を上部甲板から眺めていたマルコとサッチ。
「ククッ、相手になってねぇよい」
「しっかし、最近ますます強くなったなぁ」
サッチの言葉に相槌を打ちながら沙羅を見つめるマルコ。
強くなったのは、間違いない。
そしてこの船に、海賊船に乗っている以上、強いに越したことはない。
だが、それに比例するかのように、少女から女性へと大人の階段を上り始めた沙羅。
何事にも無邪気だった性格は、奥ゆかしさを備え、
時として少年のようだった動きは、柔らかさを増し、淑やかな雰囲気を醸し出す。
マルコにとっても、その成長は喜ばしい物なのだが。
元来の、素直で人懐っこい所は変わらない沙羅。
おかげで、新たに入ったクルーやマルコ達若いクルーの中には、本気で思いを寄せるものも少なくない。
今も、勝利を祝いじゃれ合う中に、そんなクルーの一人を見つけマルコの目に嫉妬の炎がちらつく。
“触ってんじゃねぇ”
その鋭い視線に何かを感じたのか、沙羅が急に上を向く。
次いで、マルコに気付くとパッと花が咲いたような笑みを浮かべて言った。
「マルコ~!サッチ!勝ったよ~!!」
その笑顔にマルコの顔も思わず緩む。
それを見た昔からいるクルーは苦笑し、
新たに入ったクルーは驚愕する。
歳三との修行開始から約1年。
その強さは、若手クルーだけでなく古参のクルー中でも群を抜き、ついに一番隊副長を任されるまでになっていた。
元々冷静沈着な上に、愛想のないマルコ。
それが若手クルーにとっては、憧れと畏怖の対象となり、多くの者は、マルコが常に淡々と冷静な表情を崩さないものと思い込んでいた。
そんな若手の戸惑いなど全て無視し、マルコは上部甲板から軽く飛び降りた。
「お前ぇら、今日は俺が相手になってやる」