第23章 二つ島~危機~
「ゼハハハ、こりゃ確かに旨ぇなぁ」
「でしょ?」
特徴的な笑い声をあげながら幸せそうにチェリーパイを頬張る家族に、沙羅も嬉しそうに笑った。
数日前、マルコと街を歩いている時に、たまたま入ったカフェ。その店のチェリーパイが思いの外、美味しく、沙羅はそれが大好物の兄を誘った。
「モビーでも食べてぇなぁ」
「サッチなら作れそう!頼んでみよう!」
「沙羅の頼みなら、やってくれそうだぁ!」
「それ、マルコにも言われた、私そんなに横暴?」
「ゼハハハ、違うだろう!」
眉根を寄せて、悩ましげにため息をついた沙羅に男はきょとんと目を丸くし、次いでまた特徴的な声で笑った。
「妹の頼みに、兄貴は弱ぇもんだ」
「!・・・ありがとう、お兄ちゃん」
男を驚かせたくて、理由を告げずに『ちょっと付き合って』と誘った沙羅に、男は最初返事を渋った。
だが、残念そうに俯いた沙羅に、男は慌てて是と返したのだった。
内心は、二人きりで出かけてマルコに殺されると冷や冷やしながら。
「次はマルコを誘ってくれよ」
「うん!」
そうして、おかわりしたチェリーパイをペロリと平らげると二人は店を後にした。
帰艦しようとモビーディック号に足を向けた沙羅と逆方向に足を向けた男。
「でかけるの?」
「今日はオヤジの護衛だ」
「え?・・・今日はクリエル隊長とルイ副長じゃなかった?」
「クリエルに頼まれてな、交換だ」
それを聞いた沙羅は思い出した。
「そっか、今日は隊長たちの飲み会だったね」
「きっと明日は二日酔いだぜぇ」
その光景を思い浮かべた沙羅と男は顔を見合わせて笑った。
「じゃ、気を付けて帰れよ」
「うん、オヤジ様によろしく!」
二人はそこで別れた。