第19章 告げない愛、告げたい愛
そんな沙羅の心を、マルコは知らない。
ただ、その香りはお琴の言葉を思い出させた。
あの最期の日の言葉。
ずっと忘れていた。
いや、その言葉の表面だけを聞いていた。
『・・・大事にしてやっておくれよ』
今ならわかる。
託されたのだと。
大事な娘を慈しみ、守り、導くことができなくなるお琴に変わって。
沙羅の未来を任されたのだと。
“わかったよい”
マルコは自身の心が変わっていくのを感じた。
ふっ・・・とマルコは笑った。
鋭くもなく、
甘くもなく、
ただ、ただ沙羅が愛おしくて、笑った。
「沙羅」
そうして、触れていた髪をゆっくりと解放すると強風を僅かでも遮るよう風上に立った。
「・・・ありがとう、マルコ」
名前を呼ばれた沙羅は、マルコの動きに気づきに心底嬉しそうに笑った。
そんな甘いやり取りをする二人を乗せたモビーディック号が去っていく。
それをシャンクスは驚愕の表情で見ていた。
シャンクスの唇が微かに動いた。
『沙羅・・・』と。