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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第18章 覚悟 


その理由が今ならわかる。
万が一にも追っ手に見つかるわけには行かなかったから、他人との関わりを恐れていたのだと。
子供から見ても美しい容姿は、作られたものだったから。
母ユエの母親、沙羅の祖母は、天竜人に献上され心を壊してしまった。
戻ってきた祖母に与えられた唯一の“役目”
新たな美しい海神族を“生み出す”こと。
子を成しては産ませ、産ませては子を成して。
祖母は子供を産む道具として生かされた。
ある時、月光を集めたような“銀の髪”が美しい男を贋兵衛が連れてきた。
男は祖母が孕むまで毎晩毎晩、祖母を犯した。
その話を自分達がどうやって作られたか姉から聞かされたユエ。
母ユエにとって、類い稀な美しい容姿は献上するためだけに作られた“物”。
そして数人いた姉達は一人減り、二人減り・・・全員が天竜人に献上された。
その中でたった一人逃げ出したユエ。
ロイに愛され大切され、幸せである半面、常に罪の意識に苛まれていた。
そして、
もし娘である沙羅の存在が一族に知られたら。
もし沙羅が天竜人に献上される事になったら。
寝ても覚めてもいつもそれを恐れていたのだと。

「・・・」
虚無感のようなどうしようもない思い。
覚悟を決めて親族を訪ねたはずだった。
贋兵衛や晴陽に会い、その笑顔に触れ、母の思い出を辿り、嬉しかった。
海神族も人間で、確かに希に見る強い力ではあるけれども自分は化け物ではないとほっとした。
だが、あの笑顔の裏側に隠されたおぞましい歴史。
作られた母から生まれた自分。
母の命と引き替えに生き延びた自分。
天竜人の欲望を満たすためだけに存在している直系という自分。
毎日毎日考えた。
何のために自分が生まれてきたのか。
考えれば、考える程、自分の存在する意味がわからなくなった。
悲しいのか、苦しいのかすらわからない。
泣きたいような、泣くことすら無意味なような。
目に映る全てが色彩を失い、輝きを失っていった。
見えないのではない、眼球に映るだけ。
空間が音を失っていった。
聞こえないのではない、耳を流れていくだけ。
沙羅の世界は動きを失っていった。
心が動かない。
心が感じない。
心が、
凍りついた。
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