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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第18章 覚悟 


 モビーディック号を離れ、和の国についた沙羅とイゾウは、海神族の親族を目指していた。
「いらっしゃいませ、ようこそ!」
宿屋の女中の元気のいい掛け声に、イゾウは『二人頼めるかい?』と言った。
女中は二つ返事をしながら、思わずイゾウと沙羅を凝視し、次いで繰り返し交互に見比べた。
その反応にイゾウはくつくつと笑い、沙羅は『イゾウ“さん”、笑い過ぎです!』と慌てた。
女中の反応も無理はない。
イゾウがいつもの女形の装いなのは言うまでもない。
そして沙羅はと言うと、黒髪をきりりと一つに結い上げた袴姿。
男装の麗人と言うよりも、美少年と言う言葉がしっくりくる雰囲気が尚更、妖しさを増す。
和の国は男性優位の国。
女形姿のイゾウと女の沙羅では不都合もある。
女では刀を持ち歩くのもままならない。
そうイゾウに言われて、男装を了承したのだが、明らかにイゾウは相手の反応を楽しんでいる。
女形の男と男装の女。
目立たないはずはなかった。
しかも、未婚の男女が同室なのは好ましくないお国柄に、夫婦(メオト)の体を装おっているから『イゾウ隊長』と呼ぶこともできず。
しっくりしない呼び方に戸惑いながら、ぎこちなく『イゾウさん』と呼ぶ沙羅の反応もイゾウは明らかに面白がっていた。
部屋に案内されてからも小さく笑っているイゾウを沙羅はキッと、睨んだ。
それでも出された夕食にお腹を満たし、温泉に浸かり、疲れを癒せばあっという間に眠気がやってくる。
初めは並べられた二つの布団に戸惑ったものの、それに慣れてしまえば何のその。
布団に入るとすぐに深い眠りについてしまった沙羅。
「・・・」
その寝顔を起き上がったイゾウは伏せ目がちに見つめた。
その瞳の中には哀と愛が入り混じる。
手を伸ばせば触れることができる距離にいながら、触れることはできない愛する女。
沙羅が起きていれば遠慮なく触ることができる。
しかし、眠っている今、触れればどうなるかイゾウ自身が一番よくわかっていた。
短く嘆息し、視線を外すと布団から抜け出る。
障子越しに月明かり。
イゾウは僅かに障子を明けると、酒をあおる。
二人きりの旅でありながら、二人きりになれないもどかしさ。
会話の端々に沙羅の口から発せられる『マルコ』の三文字。
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