第17章 それぞれの想い
ハレム島を後にしたモビーディック号は、行方をくらましたゾイド達を探しつつ、気儘な航海をしていた。
次は穏やかな春島。束の間の休息にクルー達も浮かれていた。
だが、船長室は緊迫した空気に包まれていた。
「どういうことだよい?オヤジ・・・」
普段、一番隊隊長としても、長男的立ち位置からしても冷静で、白ひげに否と言うことのないマルコの表情には怒りが見え隠れしている。
「どうもこうもねぇ、沙羅が決めた事だ」
「けどっ!」
「それとも何か?おめぇ、案内役のイゾウに不安でもあるのか?」
心の内を見透かすように、白ひげはぎろりとマルコを、見据えた。
「・・・っ」
思わず視線を逸らすマルコ。
拳を握り締めると、それでも小さく『案内役に不安はねぇよい』と言いそのまま部屋を去っていく。
その後ろ姿を驚いた様子で見送るナースのシルビア。
正直、本気で怒る所など見たことのなかった彼女は肝を冷やした。
まさか、あそこまで怒るとは。
普段は船の事に口を一切挟まないシルビアも、思わず口にしてしまう。
「よろしいんですか?あんなに怒らせてしまって」
血圧を測りながら尋ねた。
すると白ひげはグラララと笑い、言った。
「あの鼻ったれにはいい薬だぁ」
シルビアは目を瞬かせた。
「あら、船長はてっきりマルコ隊長推しかと思ってました」
「あいつがいつまでも覚悟を決めねぇからだ、それに・・・」
白ひげは先日のイゾウの目を思い浮かべた。
『オヤジ、沙羅と和の国に行ってきていいか?』
『どうした、急にぃ』
『海神族の身内がいるらしい、わからねぇ事だらけのまま狙われるってのは割に合わねぇじゃねぇか』
イゾウの言葉に嘘はない。だが、白ひげはその内に秘めた思いを感じていた。
『グラララ~それだけかぁ?』
からかうように、だが、鋭い眼光をイゾウに向けた。
しかしイゾウは全く怯むことなく白ひげの眼光を受け入れ、ただ、白ひげを煩わせることを詫びるように言った。
『沙羅に惚れてる』
白ひげは目を僅かに見開いた。
斜に構え、好き勝手に振る舞っているように見せながら、その実、家族の和を何よりも大切にしているイゾウが珍しく我を前に出した。
グラララ~と嬉しそうに笑うと無言で先を促した。
『無理強いするつもりはねぇ、ただ・・・』
そこでイゾウは言葉を迷うように沈黙した。