第13章 新世界を一人で生き抜いた女
「今言った奴、出て来い」
怒気を含んだサッチの声に、沙羅とハルタを囲むように立っていたクルー達はびくっと体を震わせた。
「サッチ、いいから・・・」
珍しく本気で怒っているサッチを宥めようと沙羅は言った。
「よくねぇよ、海賊だって言っちゃいけねぇことくらいあんだろ」
その目はいつものヘラっとしたふざけたものではなく、鋭くつり上がっている。
きっかけは、海軍との小競り合いを制し、散らかった甲板を片付けている時だった。
海軍には顔を知られないように、との配慮から沙羅は海軍との戦いには参加していない。
それでも後片付けくらいはと、パタパタと動いていた沙羅とハルタが軽くぶつかった。
すぐに謝った沙羅に、ハルタは溜息をつきながら言った。
「邪魔、大人しく部屋にいたら?」
ハルタに良くは思われていないのはわかっていた沙羅はもう一度謝ると、しかし、また片付けを再開しようとした。
するとそこへ、同じく沙羅を良く思っていないクルー達が現れた。
『いいよなぁ、VIPさんは』
『三下の海賊相手にしてればいいもんな』
『こっちは、命かけてるってのに』
『不公平だよな』
『働かねぇで、でかい面しやがって』
『ば~か、こいつは“夜”働いてるんだよ』
その言葉に数名のクルーが、にやついた。
『そうだな、毎晩隊長達に可愛がられてんだもんな』
瞬間、今まで何度挑発しても言い返すしたことのなかった沙羅の顔色が変わった。
「侮辱しないで・・・」
『『は?』』
「マルコやサッチやイゾウ隊長も、皆、貴方達が言っているようなことはしてません!」
『『っ!!』』
自分達の言葉が隊長達を貶めることを意味することに気がつかされたクルー達はいきり立った。
『うっせぇな』
『てめぇは夜の相手だけしてればいいんだよ!!』
自分の存在そのものを否定するような発言に、沙羅は唇をきゅっと結んだ。
次の瞬間だった、サッチの声が響いたのは。
本気で怒ったサッチがどれほど怖ろしいかわかっているクルー達は顔を見合わせて、その後俯いたまま微動だにしない。