第12章 穏やかな日々
そのあと、僅かの間、黙り込んだマルコ。
これから何と伝えたらいいか、今更ながら言葉に迷う。
沙羅が出かける際に剣を置いてくれた時、マルコは思い出した。
歳三のお琴への誓い。
もちろん、夫婦の二人と、マルコと沙羅では関係が全く違う。
ましてや、置かれている状況や危険性、沙羅の求めている家族との関係性も。
だが、家族を信頼してくれた沙羅に応えたかった、“家族として”。
そして、誓いたかった、“男として”。
マルコは意を固めた。“俺は俺だよい”
『沙羅』と呼び、意識をこちらに向ける。
「“あの時”は“お互い”、弱かった」
それが、どの時か沙羅にはすぐにわかった。
後悔しても、取り返すことのできない歳三の命が消えた“あの日”。
「けど、今、俺“達”は強くなった」
その“達”に自分も含まれていることに沙羅は気がついた。
小さく頷いた沙羅をマルコは真っ直ぐに見た。
歳三の死を自分だけの責任と抱え込んでしまったマルコにかけられた沙羅の言葉を思い返す。
『マルコ、・・・一人で、背合わないで?』
『一人で苦しまないで?』
「俺だけじゃどうにもならねぇときは、沙羅、おめぇの力を貸してくれ」
沙羅は弱くない。そして、守られるだけの関係は望まない。
「だが・・・」
それでも、好きな女は、沙羅だけは守ってやりたいマルコの思い。
「俺の力が及ぶ限り、俺がおめぇを守る」
「!!」
沙羅は胸がいっぱいになった。
こちらの気持ちを汲んでくれて、なお、信頼に応えてくれたマルコ。
どうして、
マルコは、
マルコだけは、
こんなにも、
違うのだろう。
いつだって、
こちらの気持ちを察し、
更にその先までも、
思ってくれるのだろう。
“好き、マルコが好き”
だからマルコに大切な人ができるまでは、
そばにいさせて。
守らせて・・・
守って欲しい。
そんな思いをひた隠すように沙羅はマルコの胸元に顔を埋(ウズ)めた。