第4章 Sugar and Salt
【翔side】
今夜も待っててくれるはずの智くんを思って、俺はご機嫌で玄関のドアを開けた。
すると、そこには無造作に転がった脱ぎっぱなしの靴が....
来てるんだよな?智くん....
でも、珍しいな〜..こんな乱暴に脱いどくなんて。
リビングのドアを開けると、
床にペタリと座り込んだ彼の背中が見えた。
「....ただいまぁ〜..」
おずおずと声を掛けると、弾かれたように振り向いた君...その顔は、お化けでも見たような....
いつもなら、シャワーを済ませて待ってる智くんが、泣きそうな顔で眉を八の字に下げていた。
「どうしたの?」
声を掛けると、智くんは、情けない顔をして、
「ごめん...翔くん...俺、ZEROに間に合わなくって...その...ネクタイが...」
項垂れる智くんが、何だかいつも以上に可愛くて...俺は、しょげてる彼に言ったんだ。
「なら、よかったよ〜...今日はノータイにしようってなってさ、村尾さんたちもみんなそうだったんだ...だから、観てなくても、平気だよ」
「なんだ...良かったぁ〜///」
安心したのか、智くんは天を仰いだ。
「だからさ、今日は選んでいいよ..智くんは、どっちがいいの?」
すると君は、真っ直ぐに俺を見て、暫く考えてるみたいだったけど、
「今日は、翔くんを抱きたい...」
そう言った。
「了解♪いいよ、それで。
じゃ、今日は一緒にシャワーしよっか?」
「あ....うん....」
智くんは笑顔で立ち上がった。
.......本とはね、
今日は俺、赤いネクタイしてたんだ。
『抱かれるつもりの赤』....
だから君が、抱きたい、ってそう言ったとき、何て言うか、胸の奥がキュッてなった。
俺たちさ、やっぱり繋がってる....そうでしょ?
....智くん、やっぱり、君が好きだよ...
そんな、幸せな気持ちを抱いて、久々にふたりで入った風呂で、俺は、見てしまった。
智くんの背中に残った、赤い痕....
君は、気付いてないんだね...
俺はその赤の向こうにいる、
あいつの顔を思い出して、思わず唇を噛み締めた。
本人には気づかれない場所に残した痕は、恰かも俺への挑戦のような気がした。
当の智くんは、身体を洗いながら、
ご機嫌に鼻唄を歌っていた。