第4章 Sugar and Salt
【雅紀side】
「できたよ〜」
家から持ってきた土鍋を、キッチンからテーブルへと移動させた。
「すげー、いいニオイ」
本を読んでた翔ちゃんが、ソファから身を起こしてラグの上に座った。
「へへへ〜自信作!じゃ〜ん!」
なんて派手な効果音つけて蓋を開けると、白い湯気が一気にもわんと広がって。
「わぉ!うまそっ!」
歓声をあげて、翔ちゃんが笑った。
ようやく笑ってくれた…。
今日は一日、収録の時以外はずっと難しい顔してて。
家に入れてくれてからも、にこりともしてくれなくて。
本当は、悲しくて泣きそうだったんだ。
「これ、何鍋?…え?相葉くん?どうしたの?」
俺の顔を見た翔ちゃんが、驚いたように目を見張った。
慌てて片手で涙を拭って、笑顔を貼り付ける。
「鶏白湯鍋だよ!この地鶏がね、すっごく美味しいんだから!あ、ビール!ビール持ってくるね!」
捲し立てて、逃げるように冷蔵庫へと向かう。
翔ちゃんの視線を、背中に感じながら。
ヤバイ、ヤバイ。
泣いちゃだめじゃん!
翔ちゃんが変に思うだろ!
冷蔵庫からビールを2本取り出して戻ると、すっごく真剣な眼差しで、俺を見つめてくる。
「はい!缶のままでいい?グラスに注ごうか?」
「いや、いいよ…」
「そっか。あ!取り分けないとね!翔ちゃん、お皿貸して!」
翔ちゃんと目を合わせることができなくて、わざと視線を外したままで。
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます…」
俺たちは、同時に鶏肉にかぶりついた。
「うんめぇ!マジ、旨いな!この鶏肉」
翔ちゃんが、すぐに歓声をあげた。
それからものすごい勢いでガツガツ食べ始めて。
俺は嬉しくって、自分が食べるのも忘れて、その横顔に観入ってしまった。
ふふふ、かわいい。
俺、翔ちゃんが口いっぱいに詰め込んで食べるの見んの、大好きなんだよね〜。
「…相葉くん、食べねーの?」
途中、不思議そうに俺のこと見るから。
「あ、食べる食べる!よっしゃ!食べるぞ〜」
なんとか笑顔を貼り付けて。
無言で、食べて。
ちょっとお腹が満たされたら、今日の収録の話をしたりして。
こんなにゆっくり、翔ちゃんと過ごしたの、初めてかもしんない…。
なんて、感慨に浸ってたら。
「相葉くん…」
翔ちゃんの手が、遠慮がちに伸びてきて。
俺の手を、握った。