第3章 Kagero
【潤side】
携帯を放置して、翔さんはどこかへと出て行ってしまった。
珍しい。
あんなにあからさまに動揺してんの、久しぶりに見たわ。
携帯は、相変わらずうるさく鳴り続けていて。
俺はそれを取り上げて、相葉くんと繋げてみる。
『仕事、終わった?』
相手も確かめず、相葉くんが弾んだ声で言った。
あたりまえか。
翔さんの携帯だもんな。
まさか、それ以外の奴が出るなんて、思いもよらないだろう。
『俺もさ、あと二時間くらいで終わりそうなの』
そこまでは、普通の声で。
だけど。
『ねえ…終わったらさ、会えない?』
急に声のトーンが変わって。
やたらと甘ったるい感じで。
『俺…翔ちゃんに会いたい…』
まるで、ベットに誘うみたいに…。
「……翔さんなら、近くにいないよ?」
そこでようやく声を発してみると、コントみたいに電話の向こうでガタガタンと何かの倒れる音がして。
『え?だ、だ、誰?』
想像通りの慌てた声が返ってきた。
あまりに想像通り過ぎて、思わず声を上げて笑ったら、『ま、ま、松潤?』なんて、やっぱり想像通りのリアクションで。
益々笑いが止まらなくなった。
『ひ、ひどいよ!翔ちゃんじゃないなら、すぐそう言ってくれたらいいじゃん!性格悪っ!』
「ごめん、ごめん」
『翔ちゃんは?どこ行ったの?ってか、携帯放置してったの?』
照れ隠しなのか、いつもより三倍くらいの早口で、捲し立てる。
ふと、面白いことを考え付いた。
「トイレかな?あ、そうだ、今日だけど、翔さんとは会えないよ?俺、先に約束してるし。二人で」
『……え……?』
電話の向こうが、一瞬にして静寂に包まれる。
『…なん、で…?』
「なんでって、別におかしなことでもないでしょ?メンバー同士なんだし。それともなに?俺は翔さんと二人で飲みに行っちゃダメなの?そんなこと言う権利、相葉くんにあるの?」
なんにも知らないふりしてそう尋ねてみたら、答えは返ってこなくて。
「じゃ、そういうこと。また掛けたら?」
そう言って電話を切ろうとした。
けど。
『…まさか、月曜も…?』
相葉くんの、震える声。
『月曜……翔ちゃんと、約束、してる…?』
また、月曜…。
その日に、なにがあるっていうんだ?
「さあ…どうかな?」
電話の向こうで、息を呑む気配がした。