第3章 Kagero
【智side】
部屋に入ってきた筈なのに、気配がちっとも近づいてこないから。
チラリとドアの方を見ると、翔くんは茫然とドアの所に立ち尽くしていた。
なにか言いたげに、少し口を開いて。
わかってるよ。
なんで俺がここに来てるのか、わかんないんでしょ?
俺は画面に視線を戻す。
「んふふっ、若いね〜俺たち。翔くん、顎のラインがシュッとしてるもんな〜。でも、昔から変わらずイケメンだよね〜」
画面から視線を動かさずにそう言うと。
突然足音が近づいてきて、プツリと画面が消えた。
「……どういう…つもり……?」
リモコンを持ったまま、翔くんが睨み付けるように俺を見下ろす。
「どういうって…だって月曜日はここに来てたろ?この10年、ずっと」
「…だからっ…!」
一瞬声を荒げたけど、ハッとしたように口をつぐんで。
落ち着かせるように、深呼吸をする。
俺はラグから腰を上げると、ソファに座り直して隣をポンポンと叩いた。
翔くんはじっと俺の顔を見て。
それから、渋々といった感じでそこに腰を下ろした。
「……ニノと付き合うんじゃなかったの?」
「付き合うよ」
「じゃあ、なんでうちに来てるんだよ!」
「…それとこれとは、関係ないじゃん」
「はぁ?」
俺の言葉が理解できないとでもいうように、翔くんはため息をついて、深くソファに身体を沈めた。
「意味わかんねぇ…」
何気なく真っ暗なテレビ画面に目をやると、ソファに座る俺と彼の姿。
あの頃から、10年後の。
「…だってさ、10年だよ?」
再び翔くんに視線を戻すと、次の言葉を待つようにじっと見つめてきて。
「ずっと、月曜日はここにいる。それってさ、もう生活の一部だよね?ごはんを食べんのと一緒。夜になると寝るのと一緒。…息をすんのと、一緒だよ」
「……智、くん……」
翔くんが、ゆっくりと身体を起こして。
静かな瞳で、俺を見つめた。
「ニノと付き合うとか、そんなの関係ない。だって、息をしなかったら、死んじゃうじゃん」
理解できないのか、眉を潜めて唇に手を当てて、難しい顔してる。
だから、俺は笑顔を作って、両腕を彼の方へと突き出した。
「それとも…俺はもういらない?」
彼は、驚いたように目を見開いて。
それから、少しだけ口角を上げながら、俺の手を取ってその腕の中に抱き寄せた。