第3章 Kagero
【智side】
俺が付き合おうと言うと、またニノが泣いた。
声にならない声で、嬉しいって、何度もそう言って。
あいつは天の邪鬼だから、きっとここに辿り着くまでにいろいろ小細工考えたりしたんだろうと思う。
実際、告白したときも、嘘ついて家に引き込んだ訳だし。
頭の回転が早くて、人よりも先を読んで行動するから、つい誤解されがちだけど。
本当のあいつは誰よりも繊細で臆病。
自分の本当の姿を誰かに見せることを極端に怖がってる。
そんなあいつが、小細工なしの真っ向勝負でぶつかってきて。
それほど切羽詰まってたのかって、痛いほど肌で感じた。
素直に嬉しかった。
その気持ちに答えてやりたいと思った。
それは紛れもない、真実の気持ちだ。
相葉ちゃんが翔くんのこと好きだって気がついてから、相葉ちゃんのことをずっと見ていた。
彼の一点の曇りもない、翔くんへ向ける愛情が。
真っ直ぐに翔くんを見つめる熱い眼差しが。
羨ましくて妬ましかった。
だけど。
彼と居れば、翔くんはきっといつも笑顔でいられるだろう。
翔くんが疲れているときは、彼の明るさが癒してくれるはずで。
俺ではしてあげられなかったこと、相葉ちゃんならきっと……。
だから、これで良かったんだ。
そう
思おうとした、のに。
あの日。
君は終わりにするつもりだったよね?
君から始めた関係だもの。
きっと君から終わりにしてくれると思っていた。
だから、俺は君の言葉に黙って従うつもりだった。
なのに。
最後までその言葉を口にすることはなくて。
君は、最後のチャンスを手放したんだ。
たった一言。
それだけで、全てを精算できたのに。
だから、ここからは俺の意思。
俺の意思で、毎週月曜日にここへ来る。
ニノへの裏切り…?
違う。
最初から、俺の気持ちは伝えてあるんだ。
それでもいいのかと。
いいと言ったのは、あいつなんだから。
画面の中の翔くんが、いつものようにお辞儀をする。
今日のネクタイは、青だった。
そのまましばらくテレビを観ていたけど。
少し残った缶ビールの中身を飲み干して。
いつものようにシャワーを浴びた。
髪を拭きながら、洗面台の鏡に映った自分の顔が目に入って。
楽しそうに微笑んでいた。
カチャリ、と。
玄関の鍵が開く音がする。