第1章 うたかた
【翔side】
ZEROが終わった。
いつも通りの簡単な反省会の後、俺はマネージャーの車に乗った。
「櫻井さん、どっか寄ってきますか~?」
普段はコンビニやスーパーで酒やつまみを買って帰ることが多いから、気を使って聞いてくれたんだろう。
「うん...今日はいいや..」
月曜日...
マンションで智くんが待っているようになって、もう何年になるんだろう。
今ではそれが当たり前になった。
誰もいない部屋に帰るより、彼が待ってるっていうことだけで、俺は気が逸っていたのかもしれない...
コンビニに寄る時間も勿体無い...
1分でも早く家に帰りたいって。
...今夜は智くんを抱く。
テレビ画面の向こうで観ているであろう彼に、
そう合図を送った。
...智くん...君はどうして、俺に身を任せるの?
何も言わず、何も聞かず、
この関係を受け入れ続けているのは、どうして?
そう聞きたいけど...
...聞いてしまったら、終わってしまう気がして、俺は長年、その疑問に蓋をしてきた。
『男同士のセックスって興味ある?』
そう聞いたあの日から...
「ある訳ないでしょ~、気持ち悪い」
そう言われたら、
「冗談に決まってんじゃん...ヤだな~智くん」
って。そう笑い飛ばそうと思っていたのに..
「嫌じゃない」
君は簡単に、俺の提案をを受け入れた...
興味があった?
それなら、今もずっと、その関係を壊さないでいてくれるのは、どうしてなの?
単なる性欲解消のため?
...相手は、俺じゃなくてもいいの?
智くん、君の気持ちは、どこにあるの?
たくさんの疑問を胸の奥に秘めたまま、
俺は今日も彼の身体を貪る...
一番近くて、
一番遠い君を...
書類の入った重い鞄を担いで、
俺は玄関のカギを開けた。