第1章 うたかた
【智side】
「智くんはさぁ、男同士のセックスって興味ある?」
翔くんがそう言ったのはいつだったっけ?
確か、翔くんがZEROの仕事を始めた頃だから…もう10年も前なんだ。
「それって、俺と試してみたいってこと?」
そう聞き返したら、最上級の笑顔で頷かれて。
「嫌、かな?」
「……嫌じゃないよ」
嫌………なわけなかった。
だって、Jrの頃からずっと翔くんが好きだったんだ。
「でもさ、どっちかが入れられる方なんだよね?」
「そう。体格的に智くんでしょ?」
「えーっ!?嫌だよ!」
そう言うと、考えるように顎に手を当てて。
「じゃあ、俺がZEROの時に着けるネクタイの色で決めるってのはどう?青とかの寒色系の時は智くんが女役。赤とかの暖色系の時は俺が女役。どう?」
まるで子どもがイタズラを仕掛けるみたいに、笑ったんだっけ。
もしもあの時、断っていたら。
もしくは、翔くんが好きだよってちゃんと伝えていたら。
今の関係は、違うものになっていたのかな……。
ぼんやりと、今さらどうにもならないことを考えていると、画面の中の翔くんがお辞儀をして。
テロップが流れ出した。
「…今日もイケメンだったなぁ…」
独り言ちて、缶の中に少しだけ残ったビールを飲み干した。
今日は青いネクタイだったから、俺が女役だ。
毎週月曜日、俺は翔くんの家でこうやってビールを飲みながらZEROを見て、翔くんを待つ。
俺が翔くんの家に来るのは月曜日だけだ。
合鍵は貰ってるけど、いつ来てもいいなんて言われてないし。
それに合図があるのはZEROの時だけだから、それ以外の日はどうしたらいいのかわからない。
翔くんが何を考えているのか……なにもわからないから。
「……シャワー浴びよ……」
無限ループみたいな思考を一時中断して、俺は立ち上がる。
一旦寝室のドアを開けて、クローゼットに掛けてあるバスローブを手に取った。
この部屋に置いてある、唯一の俺の持ち物。
腕に引っ掛けると、ふわりと翔くんの匂いがして。
翔くんちの、柔軟剤の匂い。
俺はそれを大切に胸に抱えて、浴室へと向かった。