第14章 イチオクノホシ
【智side】
夢を、見た。
あのハワイでのデビュー会見の日。
何がなんだかわかんないままハワイに連れてこられて、戸惑ってた。
事務所を辞める気だったから、デビューって言われても意味がわかんなくて。
なんでこんなことしなきゃいけないんだって。
でも、同じメンバーの中に、君がいた。
これからどうしてったらいいのかわかんなくて、カメラを向けられても笑顔すら上手く作れない俺に、「頑張ろうね」って声を掛けてくれて。
それだけで、頑張れるって思った。
君のことが好きだったけど、同じJrでも俺と君はあまりに違いすぎて。
半分諦めかけていたあの頃。
この想いが届かなくてもいい。
君の笑顔を側で見られるなら、それだけでいい。
君の隣にいるためなら、なにがなんでもこの嵐ってグループを守っていくって。
あのクルーザーの上で、青いハワイの海を見つめる振りをしながら、君の横顔をずっと見つめていた。
遠くで、波の音が聞こえる。
ゆっくりと目蓋を開くと、目の前には翔くんの幸せそうな寝顔。
辺りはまだ暗くて。
俺を包み込むように回された翔くんの手を外すと、ベッドを抜け出し、足音を立てないようにしてテラスに出た。
目の前に広がるのは、星が瞬く空と真っ暗な海。
静かな波の音だけが聞こえる。
あの頃の夢、初めて見た。
なんでかな?
ハワイだから?
それにしても…
「んふふっ…」
思わず笑いが零れた。
可愛かったなぁ、あの頃の俺。
隣で、君の笑顔を見てるだけでいいなんてさ。
17年後にこうして同じベッドで抱き合って眠ってるって知ったら、あの頃の俺、腰抜かすだろうなぁ。
見てるだけで良かったのに。
君があの日、初めて俺に触れて。
もう君を求める心が止められなくなった。
幸せで。
でも辛くて苦しくて。
君の心を求め続けたこの10年間。
二人で微笑み合う未来を想像することなんて出来なかった。
俺たちには未来なんてないと思ってた。
だけど。
描くことの出来なかった未来が、今確かにここにある。
俺だけを見つめて、俺だけに微笑む翔くんが、ここにいる。
悩み苦しんだ時間は、きっとこの幸せを得るために必要な道程だったんだよね…。
「もう…いなくなったかと思ったじゃん…」
涙が頬を伝った時。
後ろから翔くんの腕が俺を包み込んだ。