第14章 イチオクノホシ
【翔side】
「「出たあーっ!!!」」
俺たちふたりの声と、他の観光客との声が重なり、どよめきがデッキの上に広がる。
一瞬跳ねて、その巨体を見せた鯨は、
一旦大きな水しぶきを上げて沈み、
すぐさま、今度は、さっきよりももっと船の近くで、黒い大きな身体を海上に晒して、沈んだ。
「ブラボー♪」
「アメージング!」
「ファンタスティック!」
様々な歓声が上がり、それに応えるかのように、2匹の鯨は、暫くの間、船と並走して泳ぎ、また大海原に消えていった。
俺たちは、どさくさに紛れて、
気がついたら手をしっかりと繋いでいた。
「凄いね!翔くん!あんな近くで見たの初めて!感動したよね///」
興奮して頬を赤らめ、俺に抱き付かんばかりの智を、肩を抱いて押さえた。
...流石にね...人目がさ。
こうして。
二時間あまりのクルージングは終了した。
「ねえ、何て言ってるの〜?」
ガイドの言葉を智くんに通訳してやった。
「この時期に、あんなに近くで長い時間鯨を見れたのは奇跡だって!
みなさんは幸運に恵まれているってさ♪」
「凄いね!俺たちってさ〜、持ってるじゃん!」
ホントに。
あのまま鯨が現れなかったら、『やっぱり持ってない男』で終わっただろうけど。
...何気に、もしかして、持ってないもの同士で、打ち消しあってプラスに転じてたりしてね〜♪
興奮冷めやらぬ俺たちは、ラハイナのショップに入り、おそろいでTシャツを買った。
色違いのそれは、前に大きな鯨が二匹プリントされているものだった。
まさに、今回のクルージングのために作られたみたいなTシャツだった。
ついでに、3人へもTシャツを買った。
こっちは夕陽の椰子の木にサーフボードが立てかけてあるやつで、やっぱり色違いにした。
ホテルに向かうタクシーの中、
「翔くん、あの鯨、きっと恋人同士だよね?中良さそうだったもんね~♥」
俺に顔を近づけ、嬉しそうにそう言う智くんの笑顔に、俺の胸はキュンとなった。
...この目は、キスを強請る目だ..
こんなところで...?
でも...
おんなじ気持ちなんだよね~...俺も。
運転手が、日本のゲイカップルをルームミラー越しにちらちら見ていたけど、俺はその赤い唇に、触れるだけのキスを落とした。
で、小声で、
「続きは今夜...」といった。