第14章 イチオクノホシ
【智side】
首の付け根にチリッと痛みが走る。
「お返し」
鼻先で、翔くんが愉しげに笑って。
彼の指がそこをなぞった。
「え、ちょっと、痕つけた?」
「うん。俺のもんってしるし」
「ここじゃ、Tシャツから見えちゃうじゃん!俺、そんなとこにつけてないし!」
「大丈夫、大丈夫。虫刺されに見える」
言いながら、俺の中に埋めた指をくいっと曲げた。
「んんっ!」
勝手に身体が跳ねる。
「ね?もう挿れていい?」
耳たぶを甘噛みしながら、囁かれて。
そんなの、やだって言うわけないじゃん。
「うん。翔くんのおっきいの、ちょうだい?」
チュッと音を立ててキスをすると、翔くんは深く舌を差し込みながら、俺の中に侵入してきた。
「すげー、可愛かったよ? 気持ちよかった?」
互いに熱を吐き出して。
気怠い身体で抱き合いながら、翔くんが聞いてきた。
「うん。すっごく気持ちよかった」
答えると、愛しそうに俺の頭をゆっくりゆっくり撫でてくれる。
終わった後、こんな風にゆったり過ごすのは久しぶりかも。
ここのところずっと、次の日の仕事のこと気にして、サッとシャワーを浴びて寝ることばっかりだったから。
俺、今、すっごく幸せだ。
その気持ちを伝えたくて、頬っぺたにキスを落とす。
翔くんは擽ったそうに微笑んで。
強く抱きしめてくれた。
「ねぇ、本当はなんか予定があったんじゃないの?」
「うん、まぁ…でも、いいよ。今日の智くん、いつもより何倍も可愛かったし」
そんなこと言われて、なんか恥ずかしい。
「じゃあ、今日の予定はなくなったの?」
「そうだね」
「じゃあ、俺、やりたいことあるんだけど」
「なに?」
「波打ち際を、手を繋いで歩きたい」
そう言うと、翔くんは驚いたように身体を離した。
我ながら、乙女チックだなって思うけどさ。
でも折角こんな非日常的なところに来たんだし。
日本じゃ絶対出来ないこと、やりたいんだ。
ちゃんとした恋人同士になったって、実感したい。
翔くんは思案するようにじっと俺の顔を見つめていたけど。
やがて優しい微笑みを浮かべて、起き上がった。
「いいよ。行こうか」
言いながら、右手を差し出してくれて。
俺は迷うことなくその手を取った。