第13章 キミの夢を見ていた
【潤side】
「翔くん、幸せになって…」
そう言うと、なにかを言おうと口を開きかけた翔くんの瞳から、宝石みたいな涙が零れ落ちた。
慌てて上を向いて、唇を噛んで涙を堪えようとしてて。
隣にいる大野さんは、そんな翔くんのことを優しげな瞳で、本当に愛しそうに見つめてる。
翔くんが、曇りのないまっすぐな瞳で、大野さんを見つめて。
大野さんが、何度も頷きながら見つめ返してて。
二人だけの完成された世界が、そこにある。
なんかもうさ、そんなの見せつけられたら、諦めるしかないじゃん。
無理矢理そこに割って入ろうとして、翔くんを傷付けて…。
癒してあげたくて、その傷口に触れたら、ますます深く傷口を抉った。
傷付いてボロボロになってく翔くんを前に、成す術もなく子どもみたいにおろおろするしかなくて、そんな自分に益々イライラして。
翔くんの隣にいた時間は、そんな日々の繰り返しだった。
でも、漸くわかった。
翔くんの傷は、最初から大野さんしか癒せなかったんだ。
そんな簡単なことを知るために、俺たちはなんて多くの傷を付け合ったんだろう。
でも、目の前の翔くんが幸せそうに笑うから。
そんな時間も、無駄じゃなかったってことなのかな?
これで漸く俺も、あんたから卒業できる。
もうずっと長い間押し込めて、ずいぶん歪んでしまったあんたへの想いを、漸く捨てられる。
まぁ、心の狭い俺には、相葉くんみたいに祝福するよなんて言葉、当分言えそうにないけどね。
翔くん
いっぱい傷付けて、ごめん。
でも、あんたの側にいられた時間は、俺にとっては一生の宝物だから。
あんたが俺だけに向けてくれた笑顔だけ、心の中に大切にしまっておくこと、許してほしい。
どうか、幸せに。
話が終わって、離れていく翔くんの後ろ姿を見ていると、その背中を追いかける大野さんの背中が視界に入った。
思わず、そのフワフワした頭をパーで叩いてしまった。
「痛って!またおまえか、松潤!」
頭を押さえながら、大野さんがムッとした顔で振り向く。
「なんなんだよ!」
「しょうがねーじゃん、ムカつくんだもん」
言うと、絶句して立ち止まるから。
その肩に手を伸ばして引き寄せ、耳元で囁いた。
「幸せにしねーと、ぶっ殺す」
大野さんは、強い光を宿した瞳で見つめ返してきた。
「安心しろ。絶対、幸せにするから」