第11章 ふたりのカタチ
【潤side】
「潤…一緒に帰ろう…?」
帰り支度をしていると、翔くんが小さな声でそう言った。
俺は、手元に視線を落としたまま、動けない。
顔を見たら、瞳を覗いたら、また抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまいたくなりそうで…。
「潤…」
不安を隠せない、声。
そんな声で呼ぶなよ。
置き去りにされる子どもみたいな、声。
知ってるよ。
あんたが誰を求めてんのか、そんなの相葉くんに聞かなくったって知ってる。
だって、あの日の声が、耳の奥にこびりついて離れないんだ。
『智くん…もっと…』
側にいて、何度も抱いて。
いろんな声を聞かせてくれたけど。
リーダーを呼ぶ、あんな風に甘くて蕩けそうな艶やかな声は、一度も聞かせてはくれなかった。
もう一度聞きたくて、あんな声で俺を呼んで欲しくて、俺の全てを掛けて愛したけど、あんたが本当の意味で俺を受け入れてくれることはなかった。
心を開いてくれることは、一度もなかった。
上辺だけの、関係。
それでも、良かった。
それでいいんだと、必死に言い聞かせてた。
言い聞かせて、いた、のに…。
「潤…」
翔くんの指が、腕を掴む。
自分でも驚くほどにビクッと身体が震えて、翔くんもびっくりしたように手を離した。
「ごめ、ん…」
「いや…」
重苦しい沈黙が落ちる。
俺も翔くんも、そのまま動けなくなった。
しばらくそのままでいたけど、やがて翔くんが大きなため息を吐いて、側の椅子に腰掛けた気配がした。
「潤…どうしたんだよ…?」
なんで?
なんで今日に限って、そんな何度も名前を呼んでくれんの?
呼んで欲しくない時に限って、なんで…。
いつも、そうだよ。
あんたはいつもそう。
こっちを向いて欲しいときには、向いてくれない。
それなのに、離れようとすれば縋るように手を伸ばしてくる。
自分だって判ってるんでしょう?
本当に側にいて欲しいのが、誰なのか。
それなのに、なんで側にいてくれるの?
なんで抱き締めてくれるの?
俺が、可哀想だから?
捨てられたら、独りぼっちになっちゃうから?
それだけの気持ちで側にいてくれるんだったら。
あんたは、残酷な悪魔だよ。
だったら、突き放して。
もう追い縋ったり出来ないように、ズタズタに傷付けてくれよ。
「…翔くん、教えてよ…あんたが本当に好きなのは、誰なの?」