第11章 ふたりのカタチ
【雅紀side】
泣かないって決めたのに、やっぱり涙が溢れて。
拭っても拭っても、止まんなくて。
それでも、なんとか笑顔を作った。
だって、これで最後なんだもん。
恋人だった最後の記憶、泣き顔の俺で終わりたくない。
笑顔の俺を、覚えていて欲しい。
きっと、ここのところ上手く笑えてなかった筈だから。
だから最後くらいは。
そんな俺のこと、翔ちゃんは言葉もなく茫然と見つめてた。
「今まで、ほんとにありがとね。俺、翔ちゃんにいっぱい幸せ貰ったよ。翔ちゃんが俺にだけ笑いかけてくれる、それだけで幸せだった」
「ま、さき…」
「だから、翔ちゃんにも幸せになって欲しい。誰よりも」
「…俺には…そんな資格、ないよ…」
俺の言葉に、苦しそうに顔を歪める。
儚くて今にも消えてしまいそうなその姿に、抱き締めてあげたくなる衝動を拳を握って堪えた。
もう、それは俺の役目じゃないから。
「資格なんて、そんなの誰が決めたの?誰かに決める権利があるんなら、俺にもあるよね?だって俺、翔ちゃんにいっぱい傷付けられたし」
「…ご、めん…」
小さく謝って俯いてしまった彼の頬を、両手で挟んで上げさせた。
その瞳は、怯えるように揺れていて。
俺は笑みを引っ込めて、真っ直ぐに目を合わせる。
「だったら、これは俺から命令ね。俺を傷付けた分、その分幸せにならないと許さない。じゃないとずっと翔ちゃんのこと恨んでやるから!」
翔ちゃんの瞳に、みるみるうちに涙が盛り上がってくる。
「…ここに、いるでしょ?」
頬に当てた手を離して。
拳を作ると、彼の胸を軽く突いた。
「心の一番大事な場所に、ちゃんといるでしょ?それが誰だか、もうわかってる筈だよ?その人以外と、幸せになんかなれないでしょ?」
俺は、今出来る精一杯の笑顔で言った。
もう涙は溢れなかった。
「雅紀…」
その代わりのように、翔ちゃんの瞳から涙が溢れる。
俺は鞄から合鍵を取り出して、テーブルに置いた。
「悪いけど、俺の荷物は全部処分してくれるかな?もう…あの部屋には行きたくないから」
翔ちゃんは微かに頷くと、ゆっくりと手を伸ばして鍵を握りしめた。
「…ごめんな、雅紀…」
震える声で、そう言うから。
だから、力一杯その肩を叩く。
「明日から、またメンバーの一人としてよろしくね!翔ちゃん!」
翔ちゃんは小さく笑った。