第10章 Tears
【雅紀side】
翔ちゃんが帰ってこなくて、一人で広いベッドで丸くなって微睡んでいた深夜、携帯の着信音で目が覚めた。
翔ちゃんかと思って飛び起きたら、ディスプレイの表示はニノの名前。
なんかあったんだって、ピンと来た。
そうじゃなきゃ、こんな深夜に電話なんて鳴らすはずないもん。
「もしもし!」
噛み付くくらいの勢いで応答したら、電話の向こうはシーンとしてて。
「…ニノ…だよね?」
恐る恐る聞いても、返事は返ってこない。
「どうか、したの…?」
どんな音も聞き逃さないように、携帯に耳を押し当ててたら、暫くして啜り泣くような微かな声が、聞こえてきた。
「…泣いてんの…?なんか、あった…?」
ニノは答えない。
ただ、圧し殺した微かな嗚咽と鼻を啜る音だけが、俺の耳に時々届いた。
胸がぎゅーっと押し潰されそうに苦しくなって。
俺は立ち上がると、携帯を耳に押し当てたまま、上着と車のキーを手に取った。
「今からそっち行くから!」
返事を待たずに、翔ちゃんちを飛び出す。
「車で行くから、15分くらいかな。すぐ行くからね!」
なにも答えないニノに、とにかくなんでもいいから話しかけないとって思いながらも車に乗り込んで。
スピーカーにしたまま、助手席に携帯を置くと、急いで車を出した。
「めっちゃ道空いてるから、早く着くかも!お、すげー、全然信号引っ掛かんないよ!」
空元気だってバレてるだろうけど、それでもずっと語りかけながらニノの家に向かった。
来客用のスペースに車を停めて、エントランスへ向かう。
「着いたよ!ピンポン鳴らすね!」
言いながら、ニノの部屋番号を押すと、無言だったけど入り口の自動ドアが開いた。
急いでエレベーターに乗り、部屋の前へと走る。
「部屋の前に着いたよ!」
携帯の向こうに話しかけると、チャイムを鳴らす前にドアが開いて。
涙でぐちゃぐちゃの顔したニノが、いた。
「ニノ…」
どうしたのって聞くより早く、俺は玄関先でその華奢な身体を抱き締めていた。
「ごめんね、遅くなって…」
ぎゅっと強く抱き締めてやると、しがみつくように背中に腕を回してきて。
「あいば、さん…っ……!」
俺の名前を呼ぶと、ガクッと膝から崩れ落ちて、その場で大きな声を上げて泣き出した。
俺は強く抱き締めたまま、ずっとその頭を撫でていた。