第10章 Tears
【智side】
俺は今、なにをしているんだろう。
真っ暗な闇の中に閉じ込められたように、なにも見えない。
確か、今日はCMの撮影のはずで。
5人で仲良く話をしているって設定のはずで。
俺、笑えてんのかな…?
自分が今、どんな顔してるのか、それすらもわからなくて…。
監督が首をしきりに捻って、30分の休憩が言い渡された。
椅子に座って、忙しなく動いているスタッフの姿をぼんやりと眺める。
やっぱり上手く笑えてないんだな…。
大勢のスタッフに、迷惑かけてる。
どんなに辛いことがあっても、それだけはやっちゃダメだって、それだけを守って今までやってきたのに。
でも、どうやって笑ってたのかも、もう思い出せない。
…翔くんが側にいないと、笑えないんだ…。
ふと視線を動かして、翔くんを見た。
彼は、真っ直ぐ俺のことを見つめていた。
ここ最近では、顔を見ることすらしてくれなかったのに。
「智くん…」
「翔くん…」
真っ直ぐに見つめられて、大好きな声で名前を呼ばれて。
それだけで涙が零れそうだったのに。
「…さとし…くん」
先に涙を零したのは、君の方だった。
その瞬間、君の姿だけがなにもなかった真っ暗な俺の世界にポツリと浮かび上がって。
他のものなんて、全て消え去って。
君、だけ……。
綺麗な涙を流す君だけが、俺の世界を埋め尽くしていて。
掴もうと、手を伸ばした。
「翔ちゃん、大丈夫?」
だけど、君の姿は誰かの背中に隠されてしまう。
「智、顔色悪いよ。少し楽屋で休もう?」
伸ばした手は、翔くんじゃない誰かの手に掴まれた。
なんで…?
なんで、届かないの…?
無理矢理、椅子から立ち上がらされる。
嫌だよ、ここにいたい。
君の側にいたいのに…。
何度も振り返るけど、翔くんの姿はもう見えなくて。
扉が閉まる寸前にもう一度振り返ったら、相葉ちゃんと目が合って。
泣きそうに顔を歪めて、俺を見ていた。
相葉ちゃん……なんで……?
聞きたかったけど、全てを遮断するように、扉は閉まった。
そのまま、引き摺られるように楽屋へ歩かされて。
少し乱暴に部屋へ押し込まれると、ぎゅっと抱き締められた。
「智…」
耳元で囁かれて、ようやくそれがかずの声だとわかった。
「智…智…」
何度も俺を呼ぶ声は、微かに震えていた。