第10章 Tears
【翔side】
.....あれが....
あの人が、智くん?
.........違う...そうじゃない...
俺の知ってる智くんは、
いつもなぜか眠そうで、
俺たちの話にニコニコ相槌打ってて、
何だか不思議といい匂いで、
そして、『翔くん』って.....
澄んだ綺麗なテノールで、俺の名前を呼ぶんだ。
あんな青い顔して、
苦しそうに背中を丸めて、
あんなの.....
俺の好きな智くんじゃない//////
......霧の向こうで、
深い霧のその先で、
智くんが俺の名前を呼んでる。
『翔くん』って...
少し甘えた優しい響き。
ずっといつも、すぐ側にあったのに、
手を伸ばせばそこに、
いつでもあったのに....
どうして、手を離してしまったんだろう?
あの陽だまりのような暖かさに、包まれていれば、俺は俺らしく、笑っていられたのに...
「嵐の皆さ〜ん、お願いしまぁす!」
製作会社のスタッフが俺たちを呼びにきた。
『『はぁい...』』
俯いてたものも、
目を閉じていたものも、
携帯を弄っていたものも、
その声に一斉に立ち上がる。
営業用の笑顔を貼り付けて...
そう...
それが、俺の...俺たちの仕事。
心が、砕けて悲鳴をあげていても、
俺たちは笑ってなきゃいけないんだ。
そうやって、今までも、これからも、
生きていかなきゃ、ならないんだから。
「ちょっと、休憩入れますかぁ〜?なんか少し、表情硬いんですよね〜....
もう少し、いつもの感じで..」
30分、休憩になった。
....いつもの感じ..
いつもと違うんだ、俺たち...
上手く出来てないんだ...
俺はちらっと智くんの顔を盗み見た。
パイプ椅子の背凭れに身体を預けて、
ぼんやりと一点を見つめている。
何でそんな顔してるんだよ..?
君が笑っててくれないと、
俺は.....
ふと、魂の抜けたような顔した智くんが、俺の方を向いた。
「智くん...」
「翔くん...」
名前を呼んだだけで、喉の奥が詰まったようになった。息の仕方を忘れたみたいに...
眉を下げて俺を見ている君を、
「...さとし...くん」
もう一度呼んでみたら、
涙が、溢れ落ちた。
そんな俺たちを、3人がじっと見てた。