第10章 Tears
【雅紀side】
翔ちゃんはなかなかトイレから戻ってこなくて。
もしかして具合悪いのかなって見に行こうと腰を浮かしたとき、控室のドアが開いた。
翔ちゃんが…虚ろな瞳で、立っていた。
視界の端に、松潤が立ち上がったのが見えたから、彼より先にと、翔ちゃんに駆け寄る。
「どうしたの?具合、悪い?」
訊ねたけど、返事は返ってこない。
ただじっと俺の顔を見て。
「雅紀…智、くんってさ…どんな顔、だっけ…」
零れ落ちた言葉に、絶句した。
「…なに、言ってんの…?翔ちゃん…?」
思わず肩を掴んで、揺さぶる。
「なに言ってんだよ!しっかりしてよ!」
「雅紀…」
翔ちゃんの瞳は焦点が合ってなくて…。
おかしい!こんなの、絶対おかしいよ!
翔ちゃんの中で、なにが起こってんの!?
「おはよ…」
問い詰めようとしたら、またドアが開いて。
リーダーとニノが入ってきた。
俺は、また言葉を失った。
リーダーはひどく顔色が悪くて。
ニノに支えられて、覚束ない足取りで入ってきたからだった。
「…リーダー…どうしたの…?」
ニノに問い掛けると、「ちょっと、ね…」って言葉を濁して。
リーダーは倒れるようにソファに身体を投げ出して、横になった。
ニノは横に座って、その頭をそっと撫でてた。
大切なものに触れるように、そっと。
翔ちゃんは、二人からふいっと視線を逸らして。
表情を消して、松潤の隣に座ってしまった。
重苦しい沈黙が、部屋を支配する。
誰も、一言も話すことが出来なくて。
涙が、込み上げてきた。
なんでこんなことになっちゃったんだろう…。
前も静かだったけど、穏やかな空気が流れてて。
時折は笑い声がして。
5人でいるのが、楽しくて…。
もう、戻れないの…?
あの頃の、俺たちには…。
今日撮影するCMは、俺たちの仲良さげな雰囲気が好評のCM。
こんな状態で、いいものなんか撮れるの?
「大野さん、メイクしますよ」
マネージャーから声が掛かって、リーダーが身体を起こしたけど、立ち上がった時にふらついた。
「智…!」
入ってきた時と同じように、ニノが支えながら出ていく。
…だめだよ…。
このままじゃ、ダメだ。
どうにかしなきゃ。
でも、どうすれば…。
思わず翔ちゃんを振り向くと。
やっぱりぼんやりと、二人の消えたドアを見つめていた。