第9章 消えぬ想い
【智side】
『もうすぐ帰るよ。コンビニ寄るけど、なにかいる?』
かずからLINEが来て、なにもいらないって返信した。
時計を見ると、11時過ぎ。
撮影、だいぶ押しちゃったんだな〜なんて考えながら何気なくテレビをつけて。
いきなり映し出された翔くんの顔に、思わず持っていたリモコンを落としてしまった。
しまった…今日、月曜日…
気を付けてたのに、うっかりしてた…
消さなきゃって思うのに、動けない。
画面から、視線を外すことができない。
画面の中の翔くんは、昔みたいに画面の向こうから俺に笑いかけてくれてるみたいで…。
今日は、青い、ネクタイ……
あ、そっか。
俺、翔くんちに行かなきゃ……
今日は、俺が抱かれる日だから……
『…智くん…』
どこからか、翔くんの声が聞こえる。
待ってて。
今から行くから。
急いで行かなきゃ、ZERO終わっちゃう……
「……智ってば!」
背中に、ドンッという衝撃が来て。
びっくりして振り向いた。
かずが、抱きついていた。
「かず…?なにやってんの…?」
「なにやってんのじゃないよ!どこ行くつもりなんだよっ!」
言われて、周りを見渡してみれば、エレベーターの前。
あれ?なんでこんなとこいるんだ?
なにしてたんだっけ?
確か、テレビをつけて……
翔くんが、笑ってて。
瞬間、この間みたいに喉が搾られたみたいになって。
息が出来なくなった。
「智っ!」
違う…
もう、違うんだ…
もう行けない…
月曜が来たって、翔くんには会えない。
だって、俺にはもう会いたくないって………
「智!しっかりして!」
苦しい……
息が、出来ない。
息ってどうやってするんだっけ?
無理だよ。
君がいないと、ダメなんだ。
息をするのも、儘ならない。
月曜日、あの部屋にいて。
君に抱かれて。
君を抱いて。
息をするのと、同じように………
「智っ!智ってば!」
会いたい…
翔くんに、会いたい…
でも、もう会えない。
苦しいんだ。
君を見るのが、辛い。
君が少しずつ壊れていくのを見てるのが、辛い。
それを黙って見ていなければならないのが、辛い。
辛い…苦しい……苦しくて……
いっそ、消えてしまいたい………
「智っ!智っ!」
段々と遠くなっていくかずの声を聞きながら、迫り来る闇の中へと堕ちていった。