第9章 消えぬ想い
【和也side】
「...智...あのさ.」
「ん?...なに?」
「....あ..やっぱいいや..」
「なんだよ〜...言えや〜..」
柔らかい笑顔で、そう言った。
智と一緒に暮らすようになって、二人だけの時間は、穏やかでゆっくりと流れている。
ときどき彼が、遠くを見るような目でボンヤリしていたり、辛そうにテレビ画面を見つめてたりすることを除けば....
俺は分かってる...
智の心は、まだ翔ちゃんにある、ってこと。
気付かない振りなんか出来ないくらいに。
テレビの中の翔ちゃんを観て、智は心で泣いてるんだ...
俺は、そんな彼を見ながら、
どうすることも出来ない...
だって、やっと手に入れたんだもん。
ずっとずっと見つめてきた大好きな人。
手を離すことなんか、出来るわけない...
「智...」
隣に座ってそっと肩を抱くと、俺に凭れてきた。
...智...誰にも、どこにも、やらないよ。
昨日の仕事終わり。
相葉さんに声を掛けた。
「大丈夫なんかよ?」
するとあの人、にっこり笑った。
笑ったけど、泣いてた...
押し掛けるように翔ちゃん家に行って、甲斐甲斐しく家事とかやってるらしい。
でも、翔ちゃんは....
楽屋でも、当たり前の顔して横に座る松潤と、楽しそうに話してる。
『ふたりで会うのはやめろ』そう松潤に言ったけどさ。俺、彼の気持ちも分からない訳じゃない...
だって、俺と同じだから....
やっと捕まえた小鳥を...逃がしてやらなきゃ死んでしまうって、知ってるくせに。
篭を開けてやることが出来ない....
寧ろ、足を鎖で繋いで.....
『愛してる』って囁いて、繋ぎ留め続けてる。
今のままじゃ、
このままじゃ、
誰一人幸せになんかなれない...だけど...
『もう見てられないよ...そんなに辛いんなら、翔ちゃんと別れた方が...』
見るに見兼ねて相葉さんに言ったら、
『翔ちゃんがいなくちゃ、俺、生きてる意味ないよ...』って、悲しそうに笑った。
彼もまた、俺と同じ....
どこかで、何かが、
少しずつ狂ってる。
それがもう、逃れられない罠に、身動きがとれくなってるように、誰もがもがきながらも、苦しみながらも、どうすることも出来ないでいる....
俺たちは、何処へ行くんだろう...