第1章 うたかた
【智side】
「手…繋いで…寝てみる?」
疲れきってベットに入って。
微睡みの中に堕ちかけていた俺に、翔くんが言った。
一瞬で目が覚めて、思わず彼の顔を仰ぎ見る。
君は、少し不安そうに瞳を揺らしながら、見つめてきて。
まるで、叱られるのを覚悟しておねだりする子どもみたいに。
その顔が、すごく可愛くて。
「…いいよ…」
俺は手を伸ばして、彼の右手を取った。
すると、嬉しそうに笑ってくれて。
「このまま、寝よっか?」
「…うん…」
手を繋いだまま、再び目を閉じた。
この10年、終わった後は同じベットで眠ったけど、触れあったまま眠るのは初めてで。
心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うくらいドキドキして、なかなか眠れなかった。
触れあった手から、翔くんの体温が伝わってきて。
泣きそうになる。
どうしたんだろう…急に。
なんで、こんなこと……。
でも、いい。
考えない。
だって、今、すごく幸せだから。
彼の温もりを感じながら、この幸せな気持ちのまま、眠りにつきたいんだ。
そうすれば。
夢の中でくらい、本当の恋人同士でいられるような気がして…………………
「…くん、智くん起きてってば!」
翔くんの焦ったような声とともに、身体を揺さぶられて、目が覚めた。
「…しょ、くん…?どした…?」
「ごめん!俺、寝過ごしちゃって…。もう俺のマネージャーが迎えに来る時間なんだよ!どうしよう…」
ベットチェストの上に置いてあったスマホを確認すると、確かにもうマネージャーが家に迎えに来る時間だった。
「あ〜、やべーな…」
「ごめん!目覚ましかけた筈だったんだけど…」
思わず、おろおろしてる翔くんの手を握った。
「今さらどうこうできねーだろ。俺、マネージャーに電話すっから、口裏合わせろよ?」
手を握ったまま、片手でスマホを操作して、俺の自宅へと向かってる筈のマネージャーに電話を掛け、昨日翔くんちで飲んでてそのまま泊まったから、翔くんの車に乗せてもらうことにすると伝えた。
『もっと早く言ってくださいよ…』
「悪い。飲みすぎて寝坊しちゃってさ。今起きたとこだから」
電話の向こうでマネージャーの呆れた声が聞こえる。
俺が電話してる間、翔くんは手を繋がれたまま、じっとしていた。
繋いだ手が、ひどく熱かった。