第9章 消えぬ想い
【智side】
気が付いたら、真っ白な天井が見えて。
そこにいろんな翔くんの顔が浮かんで消えた。
月曜日、俺が玄関まで迎えに行くと、嬉しそうに微笑んでくれた。
その笑顔が大好きだった。
仕事の時には見せない、柔らかい笑顔…。
それが、さっきの魂の抜けたような顔と刷り変わって。
また胸が苦しくなって。
その時、どこからか泣き声が聞こえてきた。
なんだろうと思ってそっちに顔を向けると、かずが泣きながら俺を見てた。
打ち合わせ室で倒れてたって聞かされて。
思い出した。
さっき、翔くんと話したこと。
俺と、会いたくないって………
また息が詰まりそうになって、慌てて深呼吸する。
「…智…」
かずが、ぎゅっと握った手に力を込めて。
そこで初めて、彼に手を握られていたことに気が付いた。
また、かずに不安な思いさせてんな…。
もう考えないようにしようって思ってんのに。
どうしても、意識は翔くんの元へと飛んでいってしまう。
何処にいても、何をしていても。
ダメだな、俺…
もっとちゃんと、蓋をしなきゃ。
彼への想いが、溢れ出てしまわないように、きっちり蓋を閉めて、鍵を掛けて…。
……どうしたら、鍵を掛けることが出来るんだろう……?
「…帰ろ?俺の家に」
かずが、無理矢理に笑顔を浮かべて、そう言った。
「…うん…」
支えてもらいながら起き上がって。
マネージャーにも手伝ってもらってなんとか車に乗り込んだ。
情けないな…。
今は、俺がしっかりしなきゃいけないのに…。
大きく息を吐いた俺の手を、またかずが握った。
「無理、しなくていいよ?俺の前でくらい、弱い智を見せてくれていいんだから。俺が智のこと、支えていくから…」
子どもに言い聞かせるように、優しい声でそう言ってくれて。
だけど、かずが優しくしてくれればしてくれるほど、俺の心は苦しくなっていく。
本当は、放っておいて欲しいんだ。
こんな俺のことなんて…。
「…智…」
繋いだ手をぐいっと引かれて、気が付いたらかずの腕の中にいた。
「ちょっと…誰かに見られたらどうすんだよ…」
身体を離そうとしたけど、強い力で閉じ込められて。
翔くんとは、違う腕。
翔くんとは、違う匂い。
翔くんとは違う…………
また、追いかけている。
翔くんの面影だけを……………