第9章 消えぬ想い
【智side】
その日の収録をどうやって乗り切ったのか、全く覚えていない。
控室に戻ろうと思った俺の目の前を、翔くんが通り過ぎようとした。
「…ちょっと」
考える間もなく、その手首を掴んでた。
翔くんはぼんやりとした瞳で俺を見て。
「なに?」
「ちょっと、来て」
そのまま手を引いて、スタジオを出る。
開けっ放しの無人の部屋を見つけたから、そこに彼を押し込んだ。
「…どういうつもりなの?」
聞いても、不思議そうな顔して、首を傾げる。
「どういうって?」
「相葉ちゃんと付き合ってんじゃないの?なんで松潤とも会ってんの?」
「なんでって…会ってくれって言われたから?」
「なに言ってんだよ、翔くん!」
「…なんでそんなに怒ってんの?」
本当にわからないって顔して…。
胸が、押し潰されそうだった。
「しっかりしてよ!このままじゃ俺たち、滅茶苦茶になっちゃう!嵐がなくなっちゃうよ!それでもいいの!?」
その言葉に、漸く彼がピクリと反応した。
「…珍しく、リーダーらしいこと言うじゃん…」
ぼんやりとしていた視線が、俺を真っ直ぐ見つめてきて。
「一応、リーダーだし…」
「へぇ…」
じっと俺を見つめたまま、彼の手が俺の手を力一杯ぐっと握る。
痛みに、思わず顔をしかめた。
「それもいいかもね?」
「…なに言ってんだよ…。本気で言ってんのかよ…?」
信じられなかった。
彼の口から、そんな言葉を聞くとは想像もしてなかった。
「…嘘だろ…?なんでそんなこと言うんだよ…?今まで、5人でいろんなこと乗り越えてきたじゃんか…。なんで、そんな…」
涙が、零れた。
その時、それまで表情のなかった彼の顔が、一瞬だけ苦しそうに歪んで。
視線を外して、俯く。
「…そうしたら……もう、あなたと会わなくて済むしね…」
聞き取れないほどの、小さな声で呟いて。
そのまま体当たりするように俺の身体を退かすと、逃げるように部屋を出ていってしまった。
「……翔、くん……」
『もう、あなたと会わなくて済むしね』
翔くんの言葉が、頭の中で木霊する。
何度も、何度も……。
「……っ……!」
突然、喉が搾られたように苦しくなって。
息が出来なくなって。
その場に、崩れ落ちた。
翔くん…
嫌だよ…
嫌だ、行かないで…
遠くでかずの声が聞こえた気が、した。