第9章 消えぬ想い
【智side】
控室に入ろうとドアノブを握って、思わず手を止めた。
中から、言い争う声が聞こえたからだ。
「どうしたの?」
かずが後ろから聞いてきたから、唇に人差し指を当てる。
そして、二人してドアに耳を近づけた。
「ふざけんなよっ!」
怒鳴ってるのは、相葉ちゃんみたいだった。
思わず、顔を見合わせる。
彼が怒鳴ってるのなんて、初めて聞いた。
「もう会わないでって言ったよね!?」
「…相葉くんには、関係ないだろ?」
相手は、松潤みたいだ。
なんか知ってるか?
視線だけでかずに訊ねたけど、知らないって風に肩を竦める。
「とにかく、土曜は会わないでよ!俺、翔ちゃんと一緒に住むことにしたし!」
相葉ちゃんの台詞に、突然ぎゅうっと心臓を鷲掴みにされた気がした。
…一緒に、住む…?
相葉ちゃんと、翔くん、が……?
あの、部屋、で……………
「そんなの、相葉くんにどうこう言う資格なんかないよ。翔くんが、俺と会いたいって言ってるんだから」
「おまえっ…!!」
中で何かが引っくり返るような激しい物音がして。
反射的に持ってたドアノブを押して、中に入った。
机と椅子が倒れてて、机の上にあっただろう湯飲みが割れて、破片が散らばってて。
その真ん中で、相葉ちゃんが倒れた松潤の上に乗り掛かって、殴ろうと拳を振り上げたところだった。
「相葉ちゃん、だめっ!!」
咄嗟にその腕を取る。
「離せよっ!こいつ、ぶん殴んないと気がすまないからッ!」
「こんなとこで、止めろって!」
暴れる相葉ちゃんを、かずと二人係りでなんとか止めて。
松潤の上から引き摺り起こすと、松潤は大きな溜め息をついて、笑った。
「無理矢理じゃないよ?翔くんが、それを望んでるんだから」
「てめえっ!!」
「だから止めろって!松潤もいい加減にしろよっ!」
「なにやってんの?」
また掴みかかろうとする相葉ちゃんを止めてたら、のんびりした場違いな声がして。
入口の所に、翔くんが立ってた。
だけど、彼は俺たちを一瞥しただけで、何事もなかったように、奥のパイプ椅子に座って鞄から新聞を出して読み始める。
松潤は、当たり前みたいな顔してその横に座って。
抱きしめたままだった相葉ちゃんは、俺の手を振り払って部屋を出ていった。
俺は…
ただ茫然と、翔くんを見つめるしか、なくて……
翔くん……