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スパイラル 〜螺旋の先〜【気象系BL】

第9章 消えぬ想い


【雅紀side】

え…今、いいよって言った?
言ったよね?空耳じゃないよね?

「ほんとに!?ほんとに、いいの?」

身を乗り出して聞いたら、

「…え?なにが?」

って……。

「なにがって、だから一緒に住んでいいの?って!」
「…ああ…うん…いいんじゃない?」

いいんじゃない?って…。
なんで、そんな他人事みたいな返事…。

茫然としてると、翔ちゃんはうっすらと笑みを浮かべながら、また唐揚げを旨そうに食べ始めた。

嬉しい筈なのに、俺の心はちっとも弾まなかった。
それどころか、寒気すらしてきて。

……変だよ。
絶対、変だ。
なんだろう、何かがおかしい。
こんな翔ちゃん、今まで見たことない。

確かにここにいて、俺と話をしてる筈なのに、翔ちゃんの心はここにはない気がする。

でも、他の誰かのことを考えてる感じもしない。

まるで、魂の抜けた人形みたいな……。

ものすごい悪寒が背筋を駆け抜けて、激しく身震いした。

「雅紀?食べねーの?」

翔ちゃんは、箸を置いてしまった俺を不思議そうな瞳で見ている。
くすんだ硝子玉みたいな、瞳で。

思わず手を伸ばして、その腕を掴んだ。

そうしないと…どっか行っちゃいそうな気がして…。

「…雅紀?」
「翔ちゃん、ちゃんと俺を見て」

その瞳を真っ直ぐに見つめて言うと、意味がわからないとでも言うように、首を傾げた。

「見てるよ?」
「見てないよ!ちゃんと俺のこと見て!」

掴んだ手に力を込めると、スッと笑顔が消えて。
すごく不機嫌そうな顔になって、俺の手を振り払った。

「…意味わかんね…。なんなの、おまえ、さっきから」

吐き捨てるように言って、立ち上がる。
そのまま玄関の方に向かうから、慌てて追いかけた。

「翔ちゃんっ!」

背中からぎゅっと抱きつくと、ピタリと動きを止める。

「ごめん…もう、変なこと言わないから…。だから、どっか行かないで…」

涙を堪えながら言うと、腕の中でくるっと向きを変えて。
俺を見てくれた翔ちゃんは、柔らかい微笑みを浮かべてた。

「いいよ、大丈夫。どこにも行かないよ?」

それは、いつもの大好きな翔ちゃんの笑顔で…。

頭の奥の方で微かに鳴ってる警鐘を、聞こえない振りをする。

翔ちゃんは、俺のもんだもん。
誰にも渡さないから…。

離れないように、彼の身体を強く抱き締めた。


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