第1章 うたかた
【智side】
3度目の熱を腹に吐き出したのと同時に、翔くんの熱を奥に感じた。
そのまま荒い息を吐きながら倒れてきて、強く抱きしめられる。
嬉しい……
翔くんの痕、俺の中に残してくれた……
思わず口元が緩みそうになって、見られないように翔くんの肩に顔を押し当てた。
だけど、翔くんは俺の身体を少し離して、顔を覗き込んできて。
……その顔が、何故だか苦しそうに歪んでて……。
どうしたの?って聞こうと思ったのに、唇を塞がれて、できなかった。
舌を絡め合いながらも、脳裏にはキスする前の翔くんの顔がちらついて。
なんだろう、さっきの顔……
なんか、苦しそうっていうか、泣きそうだった……
なんで?
なんで、そんな顔すんの?
それは、まさか……
不安が、ジワジワとさざ波のように押し寄せてくる。
やだ……
嫌だよ……
離れたくない…………
身体だけでもいい。
側に居させてよ。
ただのメンバーになんて、もう戻りたくないよ……
どうしたらいいの?
どうしたら、君を繋ぎ止められるの?
好きだって、愛してるって言ったら、君は俺の側にいてくれる…?
本当の気持ちを伝えたら、君は……。
俺は、彼の肩を押して、唇を離した。
「…智くん?どうしたの?」
突然そんなことしたからか、翔くんは驚いたようにまじまじと俺を見つめてきて。
視線から逃れるように、彼の身体を押し退けて、起き上がる。
「……シャワー、浴びてくる。明日、VSの収録じゃん。早く寝ないと…。翔くん、クリフクライムでしょ?寝不足じゃ、また悲惨な結果になるよ?」
無理矢理、笑顔を貼り付けた。
「あ、うん。そうだよね…」
彼はいまいち納得してなさそうに、それでも頷いて。
「じゃ、先に浴びるね?」
背中にその視線を感じながら、浴室へ向かう。
コックを捻って熱めのシャワーを出すと、力が抜けて床にペタリと座り込んでしまった。
ダメだよ、今さら言えるわけがない。
言ってしまったら…どちらにしろ、この関係は壊れてしまう。
嫌だよ、失いたくないんだ。
「……っ……うぅっ……翔…くっ……」
届けることのできない思いが、涙となって溢れる。
愛してる…
誰よりも、愛してるのに……
俺は、ここから一歩も動けないんだ…………