第8章 モノクロ
【雅紀side】
ベッドチェストの上に置かれたその真新しいボトルを見て、泣きたくなった。
俺のため、なんだよね?
俺のために用意してくれたんだよね?
嬉しいよ。
嬉しいはずなのに…。
それってさ、前のやつはリーダーのためのものだったって言ってるのと同じじゃん…。
どうしても、リーダーの影が消えない。
翔ちゃんの視線の先に、リーダーの姿が見える。
仕方ない。
まだ、仕方がない。
また、繰り返す。
だけど、身体を重ねることは俺から拒否した。
もちろん、翔ちゃんの身体が心配だから。
その気持ちが9割。
でも、残りの1割は…リーダーの影を、見たくなかったから。
どうしても、視線の先にその姿を見つけてしまいそうで…。
だから、今日は手を繋いで寝る。
それだけ。
「じゃあ、おやすみ、雅紀」
「おやすみ、翔ちゃん」
電気を消して、手を繋ぐ。
「おまえの手、温かいな…」
「翔ちゃんのは、ちょっと冷たいね…」
少しひんやりとした彼の手をぎゅっと握ると、握り返してくれて。
程なくして、翔ちゃんから規則的な寝息が聞こえてきて。
だけど、俺はやけに目が冴えて、眠れなかった。
このベッドで、二人は何度抱き合ったの?
そんなことを考えてしまって。
考えても仕方がない。
言い聞かせれば聞かせるほど、聞いたこともないリーダーの喘ぎ声が、耳の奥で木霊する。
なんで?どうして?
なんで、隠してたの?
俺に嘘ついてまで、リーダーとのこと、続けたかったの?
じゃあ、なんで俺と付き合ったの?
身体の関係だけなら、俺と付き合うのOKした時に別れるでしょ?
なんで、なんで………
でも、聞けない。
怖い。
本当は、俺よりリーダーのことが好きなんだなんて言われたら、生きていけない。
翔ちゃんの恋人は俺なんだ。
俺だけだって、言ってくれたんだ。
だから、俺が支えていくんだ。
これから先も、ずっと。
リーダーみたいに、身体だけ求めたりしない。
俺は翔ちゃんのこと、心ごと抱き締めてあげる。
だから、会って、セックスして、なんて、そんな付き合い方だけはしないよ?
こうやって手を繋いで、ただ寄り添って眠る。
それだけでも、愛は伝わるはずだから…。
心の中で唱えながら、ずっと翔ちゃんの
寝顔を見ていた。
カーテンの隙間から、淡い朝の光が差し込むようになるまで。