第8章 モノクロ
【翔side】
鞄をしっかりと胸に抱え込んで、
何だか思いつめた顔してる雅紀に、声を掛けた。
びくっと身体を強張らせ、振り返った雅紀。
「何してたの?こんなことで...」
「何でもない!...ただ俺、翔ちゃんの着換えを...」
「あ~、そうなんだ。それならこっちだよ」
俺は反対側の戸を開け、引き出しから着替えを出した。
「雅紀、今日泊まってく?」
もう遅いし、ご飯だけ作らせて帰すのも悪いかな...と思ってそう言った。そしたら雅紀は、嬉しそうに、
「いいの??泊っても?」
と嬉々とした表情を見せた。
「いいに決まってるだろ~、俺たち、付き合ってるんだから...」
「うん!!じゃあ、俺も、風呂入ってきていい??」
「あ...うん...もちろん..」
雅紀が風呂に行ってしまうと、
俺は一人...寝室に取り残された。
さっき、自分で言った言葉が、頭の中でリフレインしてる...
『俺たち、付き合ってるんだから...』
『...付き合って..るんだから...』
俺と智くんの10年には、決してなかった言葉だ。
愛の囁きも、付き合おうっていう約束も、
俺たちには、何もなかった...
合ったのは、ただお互いを求め合う身体...
それだけ...
それだけだった...
でも。
俺は違う。
少なくとも、俺だけは違う。
いつだって、彼といるときは、全身で叫んでいた。
『君が好きだ』と...
最後まで、届くことはなかった、俺の想い...
風呂から戻った雅紀は、ベッドチェストに新品のローションと避妊具が乗っているのを見て、一瞬眉を顰めた。
でもすぐに、
「翔ちゃん...用意して待っててくれたの?」
そう言って俺のことを抱き締めた。
でも、黙ったままの俺に、
「ありがとね。でも今日は、気持ちだけ...それでいいから。」
って、雅紀は泣きそうな顔をして言った。
「翔ちゃんが、ホントに元気になったら...そしたら、俺を抱いて?...今日は、手を繋いで寝るだけでいいから...」
「雅紀...」
「...翔ちゃん、好きだよ...」
雅紀はそう言うと、俺に触れるだけのキスをした。
それが逆に、俺の胸を苦しくさせたんだ。
いっそ、滅茶苦茶に繋がってしまえたら...
忘れられたかもしれないのに...