第7章 maboroshi
【潤side】
「翔ちゃん、明日退院できるって」
相葉くんの言葉に、なんとなく張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「そっか…よかった。いつ頃復帰できるの?」
ニノは心底ホッとしたように、顔を緩めた。
「それは、まだ。様子を見ながら上の人が判断するみたい」
相葉くんも小さく微笑んでるけど、顔色が悪い。
仕事の時以外はずっと付き添ってるらしくて、明らかに疲れている様子だ。
でも、正直羨ましい。
そうやって、堂々と彼の側にいられる相葉くんが。
俺には、どうやったって手に入れられないポジションだから…。
最後にリーダーに視線を移すと、感情のみえない能面みたいな顔で、ずっとスマホを弄ってる。
あれから、リーダーはずっとこんな感じだった。
何を考えてるのか、全くわからない。
翔くんのことをどう思ってんのか。
俺のことを、どう思ってるのか。
あの時、ついカッとなってリーダーのこと責めたけど、翔くんが倒れたのは彼の責任だけじゃないなんて、そんなのわかってた。
どっちかっていうと、俺の責任のが大きい。
だけど、部屋を離れるときに微かに聞いた翔くんの声が耳から離れなくて。
あんな風に甘えるような、相手に全てを委ねるような声、俺には絶対に聞かせてくれない。
それが、悔しくて…。
苛立ちを、全部リーダーにぶつけてしまった。
相葉くんみたいに、側に寄り添うこともできない。
リーダーみたいに、心の一番深いところに入り込むこともできない。
俺は、翔くんの中でどんな存在なんだろう…。
ただの、仕事仲間?
そんなの、嫌だよ。
俺だって、ずっと翔くんだけを見つめてきた。
ずっと、好きだった。
この気持ちは、リーダーにも相葉くんにも負けないんだ。
相葉くんより俺の方が先に告白してたら、今寄り添っていられるのは俺だったんじゃないの?
リーダーのポジションにはきっとどうやってもなれない。
それほどあんたの中でリーダーが大きな存在なんだって、身に染みてわかった。
でも、長い間恋い焦がれて、ようやく繋がったこの糸を切りたくない。
どんな繋がりでもいい。
あんたと繋がってたい。
「相葉くん、移動するよ!急いで!」
相葉くんは、これから個人の仕事で、病院には行けない。
「じゃ、お先に」
俺は、車のキーを持って立ち上がった。
翔くんのところへ、行くために。