第1章 うたかた
【智side】
俺の中に入ってくる翔くんの顔を、じっと見ていた。
少しだけ、苦しそうに眉を潜めて。
唇は薄く開かれていて。
頬が、ほんのりと赤みを帯びていて。
その漆黒の瞳の中に、紅い焔を灯しながら、俺だけを見つめて……。
最奥まで辿り着いて、すぐにでも動き出すと思っていたのに。
彼はひとつ息を吐くと、そのままじっと見つめてきた。
なにか言いたげに、瞳を揺らしながら。
どくん、と心臓が跳ねる。
だって、翔くんの瞳が
まるで、愛してるよって言ってるように見えて………。
そんなはず、ない。
だって、もう10年も身体の関係しかないのに。
彼が愛してくれてるなら、とっくに違うものになれてるはずだ。
俺だけ。
愛してるのは、俺だけなんだ。
だから、これは
俺の願望が見せてる、都合の良い幻に過ぎないんだ。
そう言い聞かせるのに。
あまりにも彼の瞳が優しく見つめてくるから。
錯覚、しそうになる……。
「なんで……泣いてんの……?」
翔くんの瞳が、驚きに見開かれて。
初めて、涙が零れたのを知った。
だめ……
気持ちが、溢れちゃうから……。
俺は目を閉じて、一旦彼の視線から逃れる。
「なんでも、ない……ねぇ、早く動いてよ。翔くんのせーし、俺の奥にちょうだい?」
俺のなかにいる彼のものをわざとぎゅっと締めて。
もう一度目を開いてその瞳を見つめると、淫乱に見えるように、微笑んでみせた。
そう、ちゃんと演じなきゃ。
俺はセックスが好きなだけの男で。
翔くんの身体が欲しいだけなんだ。
じゃないと
週にたった一度のこの時間さえ、喪ってしまうから……。
「……ねぇ、早く……」
目を少し細めて、いつもより低い声で囁いてやると。
翔くんが俺を見つめながら、ごくりと唾を飲んだ。
瞳の奥の、紅い焔が大きくなって。
君の身体を、焼き付くしていく。
もっと、溺れてよ。
もっともっと、俺を欲しがって。
決して、離さないで………
「……動くよ?」
腰を掴む翔くんの腕に力が入って。
俺は見つめたまま、ただ頷いた。
それを合図に、翔くんの腰がゆるゆると動き出して。
奥を突き上げる。
「あっ…んあっ……しょうっ……もっと突いて……!」
このまま
ひとつに融け合えたら、いいのに…………