第7章 maboroshi
【智side】
あのあと、気を失った翔くんの身体を濡らしたタオルでキレイにしてあげてたら、目を覚ました。
「…あれ?俺…」
状況がすぐには把握できなかったらしく、瞬きを繰り返しながら俺の顔を見つめる。
「ごめんね…俺、やりすぎたよね…」
止まったはずの涙が、また滲んで。
翔くんは力なく小さく笑うと、手を伸ばして俺の頬に触れた。
「謝んないで…俺が、望んだことだから…」
そう言った彼は、穏やかで優しい顔をしている。
「…最後だから…もっと、ちゃんと、大事にしたかった、のに…」
それを見てられなくて俯いた俺の頭を、あやすようにそっと撫でてくれて。
堪えられなかった涙が、握りしめた拳の上にぽたりと落ちた。
「嬉しかったよ?俺の中、智くんでいっぱいにしてくれて…忘れない。これから先も、ずっと忘れないから…」
俺は立ち上がり、彼の身体を起こしてバスローブを羽織らせて。
もう一度ベッドに横たえると、ぐちゃぐちゃになって落ちていた掛け布団を掛けてあげた。
その間、彼の顔を見ることは出来なかった。
「…じゃあ…」
そのまま背を向けた俺の手を、翔くんが握った。
「もう、行くの…?」
泣きそうな声に、聞こえた。
振り返って抱きしめたい衝動を、無理矢理抑え込んだ。
君をこんなに傷付けた俺には、もうそんな資格はないから。
本当は、好きだったよって、伝えるつもりだった。
最後に、俺の本当の心を知っていて欲しかった。
でももう、できるはずもない。
「…うん。じゃあ、後でね…」
いつもの台詞を、声が震えないようにするのが精一杯で。
繋いだ手が、ひどく熱いのに気がつかなかった。
あの時、きっともう高い熱があったんだろうに。
俺は、自分のことだけしか考えずに、その手を振り払って、部屋を出てしまった。
「翔くんに、なにしたんだよ!あんたは!」
俯いて、松潤の靴をぼんやりと見つめたままの俺に痺れを切らしたように、松潤の手が襟首を掴んで力任せに、壁に叩きつけられた。
「高熱って、あんたのせいじゃねーのかよ!あんたが翔くんをっ…!」
激しい怒りの声に顔を上げると、振り上げられた拳が見えて。
「潤くん、やめてっ!」
ニノの叫び声が聞こえて。
泣きそうな顔した彼が、松潤の腕を押さえてるのを、どこか遠い世界のもののように、見つめていた。