第6章 Firefly
【潤side】
翔くんの中から出ると、火を噴くように熱かった身体が、急激に冷めた。
目の前で、泣きながら翔くんを抱きしめる大野さんの背中を見ていたくなくて、脱ぎ捨てた服をかき集めて、風呂場へと向かう。
熱いシャワーを頭から浴びると、靄がかかったみたいだった頭が徐々に冴えてきた。
部屋に入ったときは、ここまでする気はなかった。
ただ、二人が俺たちに隠れてこそこそ抱き合ってんのを邪魔してやりたかっただけだ。
だけど、大野さんが俺から守るように翔くんを背中に隠して。
翔くんが助けを求めるように大野さんの手を握って。
それを見たときに、俺の中に荒れ狂う嵐が、辛うじて残っていた理性を吹き飛ばしてしまった。
なんだよ、それ。
どっからどう見ても、二人は愛し合ってんのに。
なんで別の奴と付き合ってんの?
お互いの気持ちを、試してんの?
そんなくだらないことの為に、ニノや相葉くんや、俺の気持ちを利用したんだろ?
…ふざけんな。
お互いのことしか見てないくせに。
月曜にしか会わない?
相葉くんには、言いたくない?
そんな都合のいいことが、許されるわけないだろ?
俺がこれからやることは、自分のことしか考えないあんたらに与える罰なんだ。
自分のやろうとしていることを、そうやって正当化した。
ニノと相葉くんも呼んでやろうかと脅したら、翔くんはあっさり俺に抱かれるのを承諾した。
大野さんも泣きながら、それでも俺に逆らうことはしなくて。
わざと翔くんに羞恥を煽るような言葉を投げつけたり、辱しめるようなことをさせた。
それでもやっぱり、黙って俺に従って。
そんなに、大野さんが大事なの?
そう思ったときに、気づいた。
翔くんの瞳は、俺を映してなんかいないことに。
確かに彼は、大野さんに見られていることに興奮していた。
大野さんしか、見ていない。
大野さんも、涙を流しながら、それでも翔くんから目を離すことはなくて。
あの空間に、俺の居場所なんて、なかった。
そう気づいたら、急に虚しさが込み上げた。
俺は、なにをやってるんだろう……。
シャワーを止めて、服を纏った。
開け放したままの寝室から、翔くんの小さな声が聞こえて。
「…智くん、もっと…」
さっきは聞くことのできなかった、甘くて蕩けそうな声。
逃げるように、部屋を後にした。