第5章 俺は一般人、彼女はヒーロー
俺はすぐに優里に抱きついた。
俺に血がつくことを彼女は気にしていたがすぐに背中に腕が回ってきた。
「俺は優里が帰ってくるの待ってるから」
「うん……ありがとう」
彼女の温かい背中から生えている羽の先端から徐々に黒へと変わる。
「今までたった1人で苦しみを背負ってくれてありがとう。でももう1人じゃない。傷ついたら慰めるから」
「うん…お願いね…」
羽の半分が黒に変わった時、外の爆撃による熱が風と共に俺たちに吹く。
しかし、咄嗟に優里が羽の中に俺を隠して守ってくれた。
「ははっ、俺は守られるお姫様か…」
「ううん、亜紀斗は私を支える王子様だよ」
そう言うと2人して微笑んでからそっとキスをした。
俺が翼から出るともうその翼は真っ黒だった。
「ごめん、もう行かなきゃ…またね亜紀斗」
「あぁ、またな!優里」
彼女は翼を広げ、体を浮かせる。
「絶対にこの生徒手帳は自分の手で返しに行くから!待ってて」
「当たり前だろ…俺は待ってるから」
そう言うと満足そうに微笑み、彼女はまた戦場へと旅立っていった。
俺は姿が見えなくなるまでそこにいた。
地下扉の前では担任が待っていた。
「すっきりした顔してるな?」
「はい、ちゃんと話せたので」
そう言いながら扉の中に入ると、教頭先生たちに止められた。
そう言えば2人して飛び出してきたことをすっかり忘れていた。
事情はもちろん話せないので適当にごまかし、さっきと同じらへんに座っていた。
あとは戦争が終わって優里が帰ってくるのを待つだけだ。
俺は目を閉じて、余計なことを一切考えず彼女の無事だけを祈った。