第12章 来客。
前審神者は男であり
夜伽はないが弱い者には
刀解処分が常だったらしい。
すぐに刀解はせず脅すだけ
言うこと聞かなければ暴力や
暴言を浴びせ連日出陣からの
手入れ放置。
(胸が痛む話ばかりだ…。)
強さを求める男審神者は
珍しくもないがよりにもよって
霊力が強い者になろうものなら
この本丸は形ある地獄だな。
私の体調を考えて鶴丸様は
頭を撫でて部屋を出ていった。
入れ替わりで燭台切様が
スープを持ってきてくれた。
香ばしい香りが部屋に広がり
甘いコンポタージュを差し出す
『美味しいそう…』
燭台切『食べられそうかい?』
『食べる…っ、』
燭台切『ハハッ…君は食べ物に
関する事となると可愛いね…。』
さぁどうぞ、とスプーンと
温かそうなコンポタージュを渡し
傍らに寄り添って見つめた。
ふーふーしながら食べていると
燭台切様は言いにくそうに呟く。
燭台切『主、頼み事をしていいかい』
『ん…んん?』
ゆっくりと飲み込めば
甘い液が舌を包んで喉を通る。
『頼み事、ですか?』
燭台切『長谷部君を救ってくれた
君になら頼めると思ってね…。
どうか、伽羅ちゃんを
救ってはくれないだろうか…。』
『大倶利伽羅様、ですか?』
コンポタージュを置いて
燭台切様を見つめれば誰かを
想う優しい表情をしていた。
燭台切『彼は元々、人と関わる
馴れ合いを苦手としているけど
本当は寂しがり屋なんだ…。』
『はい…。』
燭台切『ここに来てから彼は変わった
暗く笑わず誰とも話さない…僕ともね』
思春期の引きこもりだろうか
そんな簡単な問題じゃないけど
燭台切様の申し出に
私は断る事を知らない。
『はい…出来る限りの事をします。』
何の作戦もない未熟で
弱った力不足の私にさえ縋るほど
追い詰められているのだ。
燭台切『ありがとう…。』
彼の瞳に光が灯す事になるなら
やって見る事から始めましょう。
大丈夫ですよ、燭台切様…、
そう呟いた私は胸がズキリと
痛むような気がした。
大丈夫…大丈夫…
それは相手を想っての事なのか。
それとも私の不安を
隠す為の言い訳なのだろうか。
その事に私は今日も
気づかないフリを決め込んだ。
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