第23章 自我。
頭を撫でられ幾分か
落ち着いた私は重い腰を
立ちあげようとした。
緩んだと思われる結界を
直すためにもあの桜の木へ。
数珠丸『一緒に参りましょうか?』
ありがたいお言葉を頂くも
情けない所を見せたくもないので
やんわりと断った。
嫌な顔に一つせず
"お気を付けて…"とかけてもらった。
一人で向かう夜の道
廊下を進み玄関を出て草の上を
歩き続け向かう先へ急ぎ足で。
心は焦る、早く早く早く…
どうしようもない焦りが襲う。
冷や汗をかき息は切れ
握る拳は爪が立って痛み始める。
私の落ち度が何よりも憎い
不安になってしまう自分が嫌い。
どれだけ自己嫌悪に陥っても
拭えぬ罪は消えてはくれない。
サァッ…
風がなびく、草木が揺れる。
静かな夜に私の姿は滑稽か…。
『はぁ…、はっ…はぁ…っ。』
思うように足が進まず息だけが
激しく乱れてゆく。
『っ…はぁ…ぁ…。』
三日月『そんなに急いでどうした?』
『…っ!?』
突然かけられた声に体が
いつもよりも飛び跳ねた。
『………っぁ、』
三日月『………なんだ?
まるで幽霊でも見たかのような
顔をして…俺は生きておるぞ…?』
いつもの宗近様に焦っていた
気持ちも和らぎ深呼吸をした。
彼には何でもお見通し…か。
『…はぁ…っ、すみません…
ちょっと…いえ、かなり驚きました。』
三日月『そのようだな。』
急ぐだけで前を見ていなかった。
桜の木は目の前にそびえ立っていた
激しくなっていた鼓動を
落ち着かせるように胸を撫で
ゆっくり木の幹へと近付いた。
それは目を逸らしたくなる光景
『…これは、』
三日月『酷いものだろう…。』
私が目にしたのは、鋭利なもので
切りつけられていた木の幹だった
結界を強めたが前審神者との接触
その理由もこの傷が原因。
内側から傷つけられれば
外からの侵入も容易くなるだろう。
『………クソッ。』
油断した…前審神者にも
自分の今の立場にも…全部…全部…
三日月『………夜はまだ終わらんぞ。』
その言葉に…頬を涙で濡らした…
まるで、長い夜に縋るように…。
(無力な神は…刀剣達の中に
裏切り者がいるとでも言うですか…。)