第3章 誤解。
三日月様の殺気から逃れ
ドクドクと高鳴る鼓動に
息苦しさを感じた。
心臓のあたりを握り締め
深呼吸を繰り返した。
乱れた息がだんだんと
落ち着きを取り戻し体の震えも
自然とおさまっていた。
あぁ…つらい、審神者とはしんどい。
こんのすけに会いたくなった…
今頃走り回っているだろうけど
『さて、と…。』
本丸の玄関前に立ち尽くしていても
何も変わらない。
ギシッ…っと、
廊下へ足を踏み出し軋みを鳴らし
幾分か過ごしやすい空調になった
本丸内にホッと息をついた。
霊力万歳、私は偉い。
褒めてくれないのなら
自分で褒めてやる、よくやった私。
今日は早めに眠りましょ。
今日の褒美は睡眠だなと
考えながら廊下を進んで行く、
五虎退『あっ…。』
胸に虎一匹を抱えた少年が
私を見た瞬間、固まった。
言葉のとおり固まった。
(私の存在は石化するのか…。)
五虎退『………。』
『あの…、』
五虎退『ひっ!?』
『………。』
(あっ、ダメだこれ。彼泣いちゃう。)
話しかけようとすれば涙目に
動こうとすれば顔を歪ませる。
やめてこの光景ほんとに誘拐犯…
薬研『五虎退っ!!!』
(わぁお!!来ちゃった。)
五虎退『や…薬研…兄さん…。』
瞳を潤ませて薬研藤四郎様へと
抱きついた五虎退様は大声で
泣き出してしまった。
薬研『大丈夫か…五虎退っ。』
五虎退『…ぼく…ぼく、怖くて…』
薬研『あぁ、もう大丈夫だ…。』
(アウェー感が半端ない。)
その場に立ち尽くしたまま
お二人の抱擁を眺めていた。
いつ向けられる殺気に怯え
冷や汗をかきながら…
薬研『……………失礼する。』
『えっ、』
聞こえた言葉に驚いて
唖然としながら離れとゆく
二人を見つめていた。
拍子抜けした私はただ一人
廊下へと立ち尽くした。
なんなんだ今日は、
誤解パラダイスなのだろうか。
(解せぬ。)
複雑な思いを抱きながら
また本丸の廊下を進み始めた。