第15章 嫌悪。
蛍丸『………さ…なきゃ。』
それは、皆が望む反応ではなかった
"殺さなきゃ。"
そう聞こえた瞬間に蛍丸様は
私の首めがけて手を伸ばし
押し倒すように勢いよく
突進してきた。
『…っ…かは。…』
私の首を締め付けていった。
その手に自分の手を重ねて
離そうとするが冷たい手は
離れようとはしなかった。
息ができなくなる苦しみの中
愛染様と明石様は蛍丸様を
私から離そうと必死だった。
国行『蛍丸!その人は違う
あの審神者やない!蛍丸!』
愛染『蛍…!蛍…!離せって
前の主と違うんだよ…なぁっ!!』
満足に吸えない空気。
締め付けてゆく手の重み。
霞む意識の中で死ぬのかなと
どこか他人事のように考える
自分がいた。
お二人の抵抗も蛍丸様には
通じないのか私を殺そうと
何も灯さない瞳で見下ろす。
あぁ…私はどこで間違えた?
『ほた…る、さ…』
蛍丸『守らなきゃ守らなきゃ
二人を守らなきゃだめなんだ。』
守る事に依存して
周りが見えていないのですか
人を殺すことが救うとは限らない
死ぬことも決して逃げ道じゃない
国行『蛍丸!!!』
愛染『やめてくれよ、蛍!』
二人の叫びが痛いほど聞こえる
もはや息など捨て去りたいほど
私の中に入る空気は少ないのだ
私は震える力のない手で
蛍丸様の頬に触れ、
優しく愛でるように撫でた。
ほんとは霊力を流したいけど
太刀と大太刀に注いでしまい
カラカラになってしまったのだ。
『ごめ…なさ、い…』
蛍丸『………っ!』
『貴方を救えなくてごめんなさい…』
一瞬締める手が緩んだ気がした。
私を殺すことで誰かが喜び
誰かが悲しむというのなら
殺すことは答えじゃない。
『蛍丸…様…私を殺して…
あなたは…救われ、ますか…?』
ビクっと…蛍丸様は震える
溜まった涙がぽたりと落ちる。
濡れた頬を感じながら呟いた。
『悲しい…選択を自ら選ばないで…
貴方の守るその手は殺すことで…
汚していいものではありません。』
震える手が私の首を徐々に離す
『守る為の刀なら
それを護る人間もいるのですよ。』
そう呟いて蛍丸様の頭を引き寄せ
胸に押し付けるように抱き締めた。